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女性落語家の活躍、マンガの世界でも 末永裕樹・馬上鷹将「あかね噺」(第134回)

 今年、最もメジャーなマンガ誌である「週刊少年ジャンプ」(集英社)で『あかね噺』(末永裕樹・馬上鷹将)という異色作が始まった。女子高生の朱音(あかね)を主人公にした“落語マンガ”だ。これまでも『どうらく息子』(尾瀬あきら、小学館「ビッグコミックオリジナル」連載)や『昭和元禄落語心中』(雲田はるこ、講談社「ITAN」連載)など落語マンガはあったが、少年誌では初めてではないだろうか。20年ほど前に同じく「少年ジャンプ」で連載され、全国の少年たちに囲碁ブームを巻き起こした『ヒカルの碁』(ほったゆみ・小畑健)を思い出した。近い将来、本作を読んで落語家になったという人物も出てくるかもしれない。

 二ツ目の落語家だった父・阿良川(あらかわ)志ん太が、「真打昇進試験」で審査委員長の阿良川一生(いっしょう)によって破門させられた。6年後、高校生になった朱音は「真打になって父の芸がすごかったことを証明する」ため、一門ナンバー2で父の師匠でもあった阿良川志ぐまに弟子入り。高校卒業後、正式に入門することを認められる。

 少年誌に連載する落語マンガでありながら、真打を目指す主人公が女子ということも目を引く。

 平成に入るまで女性の真打は存在しなかった。初めて女性真打が誕生したのは1993年のこと。それが2000年に3人、2010年に6人、2022年には14人にまで増えた。現在、二ツ目も含めれば東京で約30人、大阪で約20人の女性落語家がいる。今年真打になった蝶花楼桃花(ちょうかろうももか)は、女性として初めて「笑点」(日本テレビ系)の大喜利に出演した。

 2010年から始まった『どうらく息子』では、26歳で入門した主人公・翔太の姉弟子として銅ら美(どらみ)が登場する。まだ女性落語家は珍しく、風当たりも強い。翔太にまで「銅ら美姐さんの『先生』はどう聴いてもおばさんだ。『八っつぁん』は、女子高生がしゃべってるようだ。女に落語はムリという人がいるのは、こういうことかもしれないな」と思われていた。一方『あかね噺』では、朱音の性別など誰ひとり気にしていないことに時代を感じる。

 落語を聞いたことがない読者に向けて、ストーリーのテンポを殺すことなく必要最低限の知識を伝える解説もうまい。個性豊かな兄弟子たち、入門から2年で二ツ目になった華麗なるライバルなどのキャラクター配置は、まさしく少年マンガの王道だろう。なお阿良川一門は立川流を、阿良川一生は立川談志を彷彿とさせるが、原作者(末永)によると一生のモデルは昭和の大名人・三遊亭圓生(えんしょう)らしい。

 10月に発売された最新第3巻で朱音は学生落語大会「可楽杯」に出場。大会という舞台を使い、落語の世界に少年マンガに欠かせない“バトル”を持ち込む展開が鮮やかだ。昨年の優勝者・練磨家(ねりまや)からしの古典の舞台を現代に変えた改作落語「BM」や、人気声優・高良木(こうらぎ)ひかる渾身の「芝浜」に対し、朱音は誰もが知っている前座噺「寿限無(じゅげむ)」で勝負をかける!