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谷崎賞・吉本ばななさん「ミトンとふびん」中公文芸賞・青山文平さん「底惚れ」、都内で贈呈式

青山文平さん(左)と吉本ばななさん=中央公論新社提供

 第58回谷崎潤一郎賞と第17回中央公論文芸賞(いずれも中央公論新社主催)の贈呈式が、10月20日に東京都内で開かれた。谷崎賞は吉本ばななさんの『ミトンとふびん』(新潮社)に、中公文芸賞は青山文平さんの『底惚(ぼ)れ』(徳間書店)に贈られた。

人生は苦痛が多い でも生きなきゃ…谷崎賞・吉本ばななさん

 『ミトンとふびん』は6編から成る短編集だ。それぞれに、大切な人の死や喪失を抱えた主人公が登場する。選考委員の池澤夏樹さんは「亡くす、失う記憶からのゆっくりした回復が通奏低音として響いている。吉本ばななさんの文学全体を貫くテーマなのではないか」と語った。「一つの主題とその変奏で一人の作家の文学全体ができている。バッハの変奏曲のように、次々と繰り返され、深まっていく。その最新の形が本作になっている」

 吉本さんはスピーチで、最後の短編の執筆中に立ち直れないほどのトラブルや仕事上の長年のパートナーを亡くす経験が重なったと明かした。「物語の主人公たちが、かすかな光とともに伝えてきました。人生は苦痛のほうが多い。でも生きなくちゃならないのだ。だから手足を動かして今日をやり過ごすのだ、と。この声が聞こえる限り少しずつでも書いていこうと思いました」

時代小説で「銀色の鰺」を書きたい…中公文芸賞は青山文平さん

 『底惚れ』は、江戸が舞台の時代小説。40過ぎの男が、思いを寄せる女を探す様子が描かれる。

 選考委員の浅田次郎さんは、「日本語の美しさは、小さい言葉の中にいかに大きな世界を表現するかに尽きる。青山さんのように、これだけ削って削って書いた文章はお手本というべきだ」と評した。

 青山さんはこれまでの執筆を、「時代小説の定型から外れたものを書いてきた」と振り返った。

 定型から外れるのは「銀色の鰺(あじ)」を書きたいから。「生きて、きらきらと銀色に光る大衆魚。つまり、生きている我々一般の姿を時代小説で描きたい。今回の受賞で、書き続ける力をちょうだいしました」(田中瞳子)=朝日新聞2022年11月2日掲載