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「宇宙開発の不都合な真実」書評 「夢とロマン」の影 あぶり出す

評者: 行方史郎 / 朝⽇新聞掲載:2022年11月05日
宇宙開発の不都合な真実 著者:寺薗 淳也 出版社:彩図社 ジャンル:天文・宇宙科学

ISBN: 9784801306202
発売⽇: 2022/09/20
サイズ: 19cm/207p

「宇宙開発の不都合な真実」 [著]寺薗淳也

 宇宙をめざす究極の目的とは、人類がいずれ地球に住めなくなるときに「種」として存続するための危機管理である――5度目の宇宙飛行でいま国際宇宙ステーションに滞在する若田光一さんは、かつてインタビューでそう語った。素直に感銘を受けた記憶がある。
 ただ、当然ながら宇宙開発にもきれいごとでは済まない現実がある。日本の宇宙開発にも携わった経験を持つ著者が「夢とロマン」の影に埋もれがちな一面をあえて論じた異色作だ。
 全5章で採り上げる内容には、宇宙ごみ(デブリ)のように、それなりに知られている問題もあれば、世間の目がほとんど行き届かないものもある。
 後者の典型例が北朝鮮の弾道ミサイル「テポドン」を契機に日本政府が導入した情報収集衛星だろう。
 2003年以来、20機近くが打ち上げられ、推定2兆円が投じられながら、どの程度役に立っているかが定かでない。ひょっとするとベンチャーから画像を買った方がいいかもしれないという。事の性質上、公開できない部分があるのは理解する。せめて非公開の場でいいから客観的に検証されるべきではないか。
 月面に再び人間を送る米国の「アルテミス計画」に、どこか似た構図があると聞けば心穏やかでない。
 日本はいち早く参加を表明したが、米国は月探査構想を中止した過去を持つ。日本は、奇跡の生還を果たした小惑星探査機「はやぶさ」の後継機開発を優先させたこともあり、当時検討されていた月探査計画が中止になった。そのことはあまり知られていない。
 米国の意向に左右されるのは今に始まったことではないにせよ、巨額な負担をいつのまにか負わされることは避けねばならない。
 世界に目を向ければ軍事目的でさまざまに打たれる布石も、またあぶり出される不都合な真実だ。「平和利用」を掲げる日本がいつまで無縁でいられるかも当然ながら定かでない。
    ◇
てらぞの・じゅんや 1967年生まれ。宇宙航空研究開発機構などを経て、宇宙開発の普及・啓発活動を行う。