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「統合失調症の一族」書評 家族の苦闘と医学の歩み丹念に

評者: トミヤマユキコ / 朝⽇新聞掲載:2022年11月05日
統合失調症の一族 遺伝か、環境か 著者:ロバート・コルカー 出版社:早川書房 ジャンル:健康・家庭医学

ISBN: 9784152101686
発売⽇: 2022/09/14
サイズ: 19cm/502p

「統合失調症の一族」 [著]ロバート・コルカー

 1944年に結婚したドン・ギャルビン&ミミ夫妻の間には、12人の子どもが生まれた。一家は騒がしくも愛すべきファミリーであったが、やがて彼らのうち半数が統合失調症と診断される。この病気に医療ができることはまだ限られた時代だった。そして世間には、統合失調症に対する無知と偏見があり、いきなり裸になったり、自分をポール・マッカートニーだと思い込んだりする人間にけっして優しくはなかった。
 厳しいのが世間だけだったら、どんなによかったか。読み進めるうち、家の中もまた出口のない地獄であるとわかってくる。警察沙汰になるような喧嘩(けんか)がしばしば繰り広げられ、水面下では性暴力も一度ならず起こっていた。その上、次は自分が発症するかもしれないという恐怖がつきまとう。安らぎとは程遠い家庭だ。
 こうなったのは、兄弟が多いせいか、それとも、父母の監督が甘いせいか。そもそも、なぜこんなに子だくさんなのだろう。ミミは医者にこれ以上出産しないよう警告され、それでも産むので、最後は子宮摘出手術を受けている。夫婦仲がいいからだと言いたいところだが、ドンには女性の噂(うわさ)が絶えなかった。
 どんな家族にも闇があり、秘密があると思うが、ギャルビン家の闇と秘密はあまりにも苛烈(かれつ)だ。しかし、本書は読者をいたずらに刺激するだけのノンフィクションではない。ギャルビン家の歴史を振り返りながら、一方で、医学の研究者たちがどのような苦難を乗り越えてきたか、そして、統合失調症の調査に適した「同じおおもとの遺伝的成分をさまざまな組み合わせで持っている家族」=ギャルビン家を発見したことで、どれほどの知見を得たかについても書かれている。
 著者がこのテーマに興味を持たねば、あるいは証言者が協力的でなければ、日の目を見ることのなかった、しかし、大事な歴史の一幕。苦難の先に救いがあって、本当によかった。
    ◇
Robert Kolker 米国のジャーナリスト・作家。「ニューヨーク・マガジン」など各誌に執筆。