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「湊かなえのことば結び」ラジオ番組の小説指南が本に 「皆で連作を書けば、会えなくてもつながる」

作家の湊かなえさん

 作家の湊かなえさんがFM大阪の番組でパーソナリティーを務めたトークをまとめた『湊かなえのことば結び』(角川春樹事務所)が刊行された。リスナーに短編小説の投稿を呼びかけ、自らの小説作法も惜しみなく語った番組を、紙上に再現した一冊だ。

 放送が始まった2020年6月は、新型コロナの緊急事態宣言が解除されたばかりだった。湊さんはリスナーに、「転生する猫とわたし」をテーマにした2千字の短編小説などを書くことを提案した。「皆で連作短編を書けば、会えなくてもつながることができるのではと」

 届いた作品は、自身が作家デビュー前にシナリオを投稿していた頃を思い出しながら講評した。慣れない創作に戸惑っているリスナーには、現実のエピソードに〈嘘(うそ)を一つだけ混ぜて〉と助言。〈キラキラ光る石を上手に砂場の中に隠してください。それが現実の話から物語に昇華させる方法の一つなんじゃないかな〉

 番組には、出身校の武庫川女子大学(兵庫県西宮市)の学長で、卒業論文を指導した瀬口和義さんも出演。湊さんはデビュー作『告白』に登場する「瀬口教授」に、恩師の名を借りたことを明かした。書いたものは声に出して読み返す、という〈教えは忘れていません〉とも。「声に出すと、セリフがひと息で言えなかったり、言うにはまだ早かったりという気づきがあるんですね」

 誰の心にもひそむ悪意をモチーフにした作品で、多くの読者を引きつけてきた。執筆を続けるうち、人の悪意をみつめたくなる「邪悪モード」が、心の内に「カッと上がってくる」ことがあるのだという。

 「もちろん、悪を助長したい気持ちはありません。自分の中にある悪意と、どう折り合いをつけるか思い悩む人に寄り添うつもりで書いています」(上原佳久)=朝日新聞2022年11月16日掲載