「香港少年燃ゆ」書評 デモに魅了された15歳の揺らぎ
ISBN: 9784093888905
発売⽇: 2022/12/01
サイズ: 19cm/317p
「香港少年燃ゆ」 [著]西谷格
今から4年前の2019年のことだ。香港では「逃亡犯条例」の改正案をめぐってデモが過激化していた。現場を取材していた著者は、そこで「勇武派(ヨンモウパイ)」として武装したハオロンという15歳の少年に出会う。本書はデモに魅了されたこの少年の「日常」を、足かけ3年にわたって追ったノンフィクションだ。
「俺、デモをやるまではずっと家に引きこもってゲームばかりしている“廃青(フェイチン)(無気力でクズみたいな青年)”だったんだ」
そう話すハオロンは学校にも行っておらず、家族との関係にも葛藤を抱えるアンダークラスの少年である。著者はこの少年と行動をともにすることで、香港のデモを最も小さな単位からとらえてみようと考えるのだが――。
その試みが上手(うま)くいっているのか、いないのか。香港への愛と正義を熱く語り、ときに無軌道な振る舞いをする一方、夜には海辺で釣りをし、荒唐無稽な将来の夢や調子のいい噓(うそ)を語るハオロン。
「私はこんなところで、いったい何をしているんだろう」と取材者としては迷いつつ、それでも著者は保護者のように夜釣りに付き合い、とらえどころのなかった香港の「いま」に目を凝らそうとする。
香港でのデモは20年、「国家安全維持法」の成立によって沈静化した。だが、これまで拠(よ)り所(どころ)にしていた「正義」が敗れた街で、少年から青年へと成長するハオロンはどこへ向かっていくのだろう――。
ふと素顔を見せたかと思うと連絡が取れなくなる危なっかしさに翻弄(ほんろう)されながらも、少年の目に映る香港社会の姿をありのままに見つめようとする筆致が瑞々(みずみず)しい。
小さな街の閉鎖性や逃げ場のなさ、思い通りにならない日々。そのなかで揺らぎながら大人になっていく少年と著者の姿には、まるで一篇(ぺん)のロードムービーを観(み)たかのような読後感があった。
◇
にしたに・ただす 1981年生まれ。ライター。元新潟日報記者。著書に『ルポ 中国「潜入バイト」日記』など。