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「私たちと戦後責任」書評 歴史認識を鍛えあげることこそ必要

評者: 藤野裕子 / 朝⽇新聞掲載:2023年04月08日
私たちと戦後責任 日本の歴史認識を問う (岩波ブックレット) 著者:宇田川 幸大 出版社:岩波書店 ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784002710754
発売⽇: 2023/02/09
サイズ: 21cm/60p

「私たちと戦後責任」 [著]宇田川幸大

 存命する戦争体験者が少なくなるなか、平和主義を維持するために何ができるのか。本書は戦後日本の歴史認識をたどり、この問いに答えを提示する。
 欧米中心で進められた東京裁判では、満州事変以後の戦争への反省はあっても、それ以前の戦争や植民地支配は軽視された。昭和天皇の戦争責任も不問に付された。高度成長期以降もこの問題は解消されず、時とともに戦争への関心は薄らいだ。1980~90年代にアジアの被害者から責任追及の声があがったこととは、非対称性が際立つ。
 自国の加害責任を自覚しにくい点で、戦争の悲惨さを強調して平和主義を掲げることには限界がある。過去を忘却していることを自覚し、歴史研究の成果に触れて、自らの歴史認識を鍛えあげる。それこそが今を生きる者の「戦後責任」なのだと著者はいう。歴史修正主義が強まるなか、一人ひとりが何をなすべきかを明示した本書は、過去と現在を考える指針となる。