日本国憲法の施行から76年。今年も5月3日の憲法記念日がやってくる。「制定以来『憲法を暮らしに』と言われ続けてきたが、決して身近な存在にはなっていない。それをたぐりよせたくて、書きました」
一橋大学経済学部卒。予備校の講師が「日本史の若手なら、一橋大社会学部の安丸良夫か、経済学部の中村政則だ」と語るのを聞き、「制度史ではなく、人に関わる研究がしたい」と中村ゼミの門をたたいた。
農村社会史などの調査で培った「史料調査と聞き取りが半々」という研究スタイルは恩師譲り。「公文書館に入っていない資料は、持ち主ですら、資料と思っていないことが少なくない。質問を重ねることで、それらはようやく表に出てくるし、新たなテーマも見つかる」と語る。
本書は四章構成。第一章から第三章は事例紹介だ。大阪の夜間中学で学んでいた在日朝鮮人の玄時玉(ヒョンシオク)さんと教師の岩井好子さん、岩手県北上市で地域に密着した読書会を続ける小原(おばら)麗子さん、岩手県陸前高田市で保育に携わってきた佐々木利恵子さんらへの聞き取りなどをもとに、彼女たちの活動がそれぞれ、日本国憲法の教育権と両性の平等、「慰安婦」問題と平和的生存権、「生命(いのち)」を含めた子どもの生存権などと関係していることを指摘する。
白眉(はくび)は最後の第四章。一~三章を下敷きに、私たちの暮らす「世界の片隅」、世界史の大きな流れ、日本国憲法が実はつながっていることが明かされる。「性別の役割を巡って玄さんが感じたり、小原さんが慰安婦に関連して抱いたりした違和感は、ロシアのウクライナ侵攻で犠牲となった女性たちの姿をあわせ鏡のように映し出します。憲法が持つ普遍性について普段から考え、憲法に対する理解を常に更新していくことが必要なのではないでしょうか」(文・宮代栄一 写真・家老芳美)=朝日新聞2023年4月29日掲載