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「カムイの大地 北海道と松浦武四郎」ほか子どもにオススメの3冊 最北の地、未知との出会い

「カムイの大地 北海道と松浦武四郎」

 江戸時代、「蝦夷地(えぞち)」と呼ばれていた北の大地に「北加伊道(ほっかいどう)」と名づけた人がいた。その人がこの物語の主人公、松浦武四郎(たけしろう)である。地名につけた「加伊」とはアイヌ語で「この地に生まれた者」という意味があり、アイヌ民族の人たちと和人が共に住むところという彼の願いがこめられている。

 彼は、伊勢神宮に全国からお参りに来るたくさんの旅人を見て育ち、自分もいつしか見知らぬ土地を訪ねてみたいと強く思うようになった。そして日本中を旅してまわった後でも、未知の世界へのあこがれはどんどん膨らんでいき、めざした所が最北の地である。メモ帳と筆記用具を常に持ち歩き、膨大な資料を残した彼の偉業には驚かされる。またアイヌ民族への差別が厳しい時代にあって、探索に出かけた先々でアイヌの村を訪れ理解を深めるために交流を重ねる姿には胸を打たれた。

 史実をもとに描かれているが、一緒に探索に出かけたアイヌの不思議な少年ホロケウを登場させることで、物語にふくらみが出ていて、伝記よみものとして楽しむことができる。(泉田もと作、岩崎書店、1650円、小学校高学年から)【ちいさいおうち書店店長 越高一夫さん】

「じっちょりんのたんじょういわい」

 児童館の片隅に暮らす、小さな生き物じっちょりん。約8年ぶりのシリーズ最新刊は、じっちょりんとその仲間たちが誕生した春の季節のお話。道が花びらでいっぱいになる頃、じっちょりんたちは「たんじょういわい」をします。この春は新しい家族が増えるのです! みんなが同じ時期に生まれて一緒にお祝いできるなんて、なんて素敵なんでしょう!

 今年の春は数年ぶりに清々(すがすが)しい気持ちで迎えられた人も多いはず。じっちょりんと、新しい季節を存分に味わって。(かとう あじゅ作、文溪堂、1540円、3歳から)【丸善丸の内本店 兼森理恵さん】

「だれのせい?」

 「オレさまの剣で きれないものはない!」と、森の木まで全部切り倒してしまったクマの兵士。突然の洪水で自分の砦(とりで)が壊されると、犯人を真っ二つにしてやるといきり立ちます。ところが、ダムの門番は突進してきたバビルサのせい、バビルサは矢を放ったキツネのせい……と、みんな誰かのせいにします。ついに犯人を突き止めたと思ったら? 民話のような繰り返しのやりとりに、武力行使や環境破壊など今の社会が重なります。気づきからの転換。イタリアの作家とエストニアの画家が描く希望の寓話(ぐうわ)。(カリ作、L-トゥーンペレ絵、ヤマザキマリ訳、green seed books、1980円、5歳から)【絵本評論家 広松由希子さん】

詩を身近に みすゞ×現代作家の絵本、9冊目

 童謡詩人・金子みすゞと現代の絵本作家がコラボレーションした絵本シリーズ「おやこでよもう!金子みすゞ」(JULA出版局)の完結作「ひとりで あしぶみ していたら」が刊行された。

 子どもたちに詩を身近に感じてもらおうと始まったシリーズで、みすゞ生誕120年の今春、9冊目で完結した。

 1冊につき10編の詩と、それぞれの詩を表現した絵を楽しめる。最新刊を含む3冊で絵を手がけた絵本作家のきくちちきさんは「絵を通して、読者がみすゞの詩を自由に解釈できるおもしろさがある」と感じている。

 きくちさんが最新刊の絵で特に悩んだのは、みすゞの代表作「こだまでしょうか」だった。「みすゞは、大事なことをさらりと言う。だから押しつけがましくしたくない。いかにも『素敵なことを言っている感』も避けたかった」。絵本では、2人の子どもがじゃれあう姿に、黄色で大きく書かれたこだま〈あすぼう〉が響き、軽やかな優しさを伝えている。「この絵が正解だとは思っていない。絵はこうだけど私はこう思う、と感じてもらうことで詩の世界が広がるのであればうれしいです」

 シリーズを通して監修を務めたのは、童謡詩人で金子みすゞ記念館館長の矢崎節夫さん。矢崎さんは「1日1編でもいい。疲れたときにこそめくってほしい」と話す。「大人も子どもも、詩のなかで楽になれることがある。1行でもいいから親子でつぶやき、こだまができたらいいですね」(田中瞳子)=朝日新聞2023年4月29日掲載