「こうして、ともに いきている」
同じ川にすみ、同じえさを食べるヤマメとイワナ。でもヤマメは水の温かいところで、イワナは冷たいところで、えさをとります。同じ森で、同じ獲物を食べるワシとフクロウ。でもワシは昼に、フクロウは夜に獲物をとります。水でも陸でも空でも、自然界の生きものは共に暮らすため、互いに工夫しバランスをとっていることが、すとんと胸におちます。
細かい説明はいりません。「こうして、ともに いきている」と2場面ごとに繰り返されるリズムと、力強い絵の説得力で、共生の原理が子どもにも深く届くでしょう。同じ草原にすむ肉食のジャガーとピューマ、草食のシマウマとヌーなど、写実的ではないけれど、圧倒的存在感の動物たち。さまざまな技法を混合し、何層にも塗り重ねられた画面が、多様な生物の共生のテーマと響き合います。
たっぷり納得させた後の結びの転換がみごと。同じ地球に住む人間はどうなのか。人間同士でさえも奪いあう世界情勢への憂いを込めながら、潔いほどシンプルな最終ページの1行の問いに、釘付けになりました。(絵本評論家・作家 広松由希子さん)
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多屋光孫(みつひろ)作、汐文社、1870円、小学校低学年から
「木曜生まれの子どもたち」
バレエをめぐって展開する姉と弟の物語。姉クリスタルは容姿も美しく親が才能を認めているが、弟ドゥーンのほうは母親からは放っておかれ、父親には「男のくせに」と非難される。しかしやがて多くの有力者に認められていく天才型の弟に、努力型の姉は嫉妬し、立ちはだかり、怒りをぶつける。バレエ教室を開いていた著者だけに描写もリアル。この2人の、好きなことに傾ける情熱、迷い、ライバル意識、幻滅などは、バレエ愛好者でなくても共感をおぼえ、ページをめくる手がとまらなくなるはずだ。(翻訳家 さくまゆみこさん)
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ルーマー・ゴッデン作、脇明子訳、網中いづる絵、岩波少年文庫、上968円、下913円、中学生から
「ここは、ようかいチビッコえん ヒュードロ・タウンのようかいたち」
ようかいチビッコえんの一日は、はじまりから終わりまで、元気な声が響きます。通うのは個性豊かな妖怪の子どもたち。
リズミカルなお歌も体操も、人間の子どもたちと同じように楽しみます。画面いっぱいに巻き起こる、子どもたちそれぞれの小さな事件。日常のリアルさに、思わずニヤリとしてしまいます。
先生と園で過ごす時間はもちろん、おさんぽ先の町の大人たちのまなざしも、あたたかくていいなあ! 優しい世界に、屈託のない子どもたちの笑顔があふれる絵本です。(丸善丸の内本店 兼森理恵さん)
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富安陽子文、大島妙子絵、福音館書店、1320円、4歳から=朝日新聞2025年3月29日掲載
