「ミハイルのハーモニカ」
この作品の舞台となっている南樺太は、今のサハリン島にあります。太平洋戦争前、その島は樺太と呼ばれ南半分の南樺太は日本の領土だったので、そこに内地から渡った日本人が暮らしていたのです。
国民学校へ通う良太たちは、学校の帰りにロシア人のミハイルが営む店によく立ち寄り、お互いの故郷の歌を歌ったり、ハーモニカで演奏をしたりして楽しい時を過ごしていました。
ところが戦争がはじまり、ミハイルは収容所に送られ、連絡が途絶えてしまいます。良太はミハイルから借りたハーモニカを返すことができず心を痛めていました。
そして日本の敗戦が決まり、ソ連軍が攻めてきたので良太たちはその攻撃から逃れるために内地へ戻ることにしますが……。
戦後80年を迎えた今年、この作品を読んで私が住んでいる長野県から樺太に渡った人たちが大勢いたことをはじめて知り衝撃を受けました。だからこそ、あまり語られてこなかった歴史を語り継いでいくことが大切なのだと改めて思いました。(ちいさいおうち書店店長 越高一夫さん)
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高橋良子文、金子恵絵、文研出版、1650円、小学校高学年から
「ガマ千びきイワナ千びき」
何度失敗しても滝を登ろうと挑戦をやめないイワナ。絶対無理だと冷ややかに見ていたガマでしたが、そのひたむきさに胸を打たれ、その想(おも)いは次第に強い憧れへと変わっていきます。大嵐の日、ついにイワナはやり遂げます。残されたガマは一体どうするのでしょうか。
エネルギッシュな文章と絵が、力強い滝の水流のように押し寄せます。限界を超えようとするイワナの姿に心を動かされたガマの変化に、勇気をもらえます。新しい環境や変化に、一歩踏み出すきっかけになる一冊です。(丸善丸の内本店 兼森理恵さん)
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最上一平作、ザ・キャビンカンパニー絵、文溪堂、1760円、3歳から
「サメのイェニー」
イェニーは小2の女の子。教室で手をあげたり大きな声で意見を言ったりするのは苦手で、ひとりでいるのが好きなのに、先生やお母さんはもっと積極的になってほしいと願っています。イェニーが好きなのはサメ。群れを作らずにひとりで泳ぐところが自分に似てるからだし、水族館のサメとは話もできるのです。
そんなイェニーの毎日が描かれたスウェーデンの作品。読んでいるうちに、みんなと同じじゃなくたっていいよね、と思えてきます。ユーモラスで楽しい挿絵もついていますよ。(翻訳家 さくまゆみこさん)
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L・ルンドマルク作、C・ラメル絵、よこのなな訳、岩波書店、1870円、小学校2、3年から=朝日新聞2025年4月26日掲載
