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「スカートと女性の歴史」書評 時代によって変わる自由の象徴

評者: 藤田結子 / 朝⽇新聞掲載:2023年06月03日
スカートと女性の歴史 ファッションと女らしさの二〇世紀の物語 著者: 出版社:原書房 ジャンル:ファッション

ISBN: 9784562072712
発売⽇: 2023/04/24
サイズ: 20cm/301,11p

「スカートと女性の歴史」 [著]キンバリー・クリスマン=キャンベル

 5月下旬まで東京都現代美術館で開催されたクリスチャン・ディオール展。会場にはディオールの原点とされる「ニュー・ルック」の代名詞「バー・スーツ」が並んだ。本書によれば、カクテルを飲むときの特別な服装としてデザインされ、第2次世界大戦後、社交を楽しむ女性の自由を象徴するものとなったという。
 本書はこの「バー・スーツ」や、日本の女性にもなじみ深い「ミニスカート」「ラップ・ドレス」「リトル・ブラック・ドレス」などの章立てで、スカートと「女らしさ」の結びつきを紐解(ひもと)いていく。
 時代によって女性の自由を象徴するファッションは変化する。著者によれば、米国では1970~90年代に、職場に女性のパンツスーツが流入した。2000年代以降、大統領選に出馬したヒラリー・クリントンがパンツスーツを愛用したように、同世代の女性にとってパンツを着用することは、歴史的に男性のものだった空間と分野に入り込むことを意味したという。
 他方、Z世代(20代後半までの若者)は「ジェンダー・ニュートラル」(性的中立性)なファッションへの関心が高い。最近では男性有名人のスカート着用も目立ち始めた。
 人種との交差性からも論じる。黒人女性テニス選手、セリーナ・ウィリアムズは出産後の大会で、黒の着圧ボディスーツ姿で登場したが、大会主催者は西洋の伝統的なテニス・スカート姿にこだわった。彼女は闘いの後、別の大会で、黒人デザイナーのヴァージル・アブローが仕立てたチュチュ・ドレスで登場した。
 今日では、男性と競争するために男らしい服装をする必要はなく、性にかかわらず、好きなものを着る自由が求められている、と著者はいう。ディオール展は若い女性で溢(あふ)れた。ロングスカート姿が多くみられた一方で、若者はジェンダー平等に関心が高い。もっと自由に生きる女性たちの物語を予感させる。
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Kimberly Chrisman-Campbell ロサンゼルスが拠点のファッション史学者、キュレーター、ジャーナリスト。