「出入国管理の社会史」書評 外国人への人権侵害の根の深さ示す
評者: 前田健太郎
/ 朝⽇新聞掲載:2023年06月17日
出入国管理の社会史 戦後日本の「境界」管理
著者:李 英美
出版社:明石書店
ジャンル:暮らしの法律
ISBN: 9784750355597
発売⽇: 2023/04/14
サイズ: 20cm/284p
「出入国管理の社会史」 [著]李英美
戦後日本の出入国管理問題の出発点は、占領期に朝鮮半島を中心とする旧植民地出身者を外国人として扱い始めたことにある。
だが、その際に用いられた手法は、あまり知られてこなかった。この問題に、本書は入管を取り巻く多様な行政・民間主体の活動という視点から接近する。
例えば、膨大な外国人登録を行うには、時に自治体職員が居住地や就労現場に出向く必要があった。朝鮮戦争前後の「密航」の防止には漁協の協力が欠かせなくなる。手続き違反者の送還を担う大村収容所が日韓交渉の頓挫で過密になると、政府と近い民間団体の管理の下で国内釈放が行われた。収容所周辺の教育現場では、「他者」としての収容者のイメージが作られる。
つまり、戦後日本では外国人を管理する網の目が入管という行政組織の外側に幾重にも張り巡らされた。外国人に対する入管の人権侵害は以前から批判されてきたが、本書は問題の深さを改めて教えてくれる。