キラキラした世界で輝いてる人が嫌いだ。劣等感が刺激され、つい卑屈になってしまう。血眼になり悪いところを探し、見つけられると安心する。
『闘いの庭 咲く女』も(書籍ではあるが)自分にとってそんな存在だった。成功を手にした13人の女たちのインタビュー集。職種は美容界のカリスマと芸能人に偏りがち。まぁ積極的に読みたい類(たぐい)の本ではない。書店で平積みされる本書を冷ややかに見ていた。
が、読んでみると、なるほど引き込まれる。シングルマザーになり困窮した神崎恵は、換金できる物を全て売り、美容サロンを開業し成功する。「母親として非常識」とバッシングされた辻希美は、自分を貫き成功する。女特有の困難をはね除(の)けていくサクセスストーリーに、つい胸が熱くなる。単なる有名人のインタビューだと斜に構えていた自分が恥ずかしくなった。
ただ、引っかかる箇所もある。作者のジェーン・スーの言葉だ。「女にまつわるつらいニュースばかり追っていたら、女はこういうものだと思ってしまう」「私たちには(略)功績を築いた女の物語が必要だ」。理屈は分かる。しかし、女の生きづらさ(女性差別)は手本があれば乗り越えられるものだろうか。本来「変われ」と呼びかける対象は、養育費を支払わない元夫であり、それを許す社会のシステムであり、母親に完璧を求める世間ではないか。
社会問題を解決せよと語る本より、個人に役立つ物語の方が売りやすい。そういう事情もあるのだろう。ただ、私たちには「社会を変える」物語も圧倒的に足りていない。そんな目線も欲しかった。
ああやっぱり嫌いだった。本を閉じて、ほっと胸を撫(な)で下ろす。同時に少し悲しくなる。女が女の成功譚(たん)をただ単純に楽しめる日はいつ来るのだろう。差別を闘いで乗り越える物語も、いいが、誰にも成長を阻まれない環境で「咲く花」に私は思い切り嫉妬してみたいのだ。=朝日新聞2023年7月1日掲載
◇
文芸春秋・1650円=6刷6万1千部。3月刊。「著者のラジオやポッドキャストのリスナーの口コミから始まり、テレビでの紹介を機に幅広く読まれるようになった」と担当者。