ISBN: 9784480684509
発売⽇: 2023/05/11
サイズ: 18cm/174p
「ナマケモノは、なぜ怠けるのか?」 [著]稲垣栄洋
冒頭、いきなり「カタツムリはつまらない生き物である」と。よりによって著者の勤務先のシンボルがカタツムリだという。
ところが柳田国男とマハトマ・ガンジーがカタツムリを称(たた)えていたことを知った著者はコロッと前言を取り下げて「カタツムリがつまらない」などとんでもない話だと他人(ひと)ごとにしてしまう(あきれた話だ)。
カタツムリは僕に言わせれば理由はともかく「芸術」である。
カタツムリに関してはまあ、ここは著者のシャレと認めましょ。それにしても「神さまはどうして、こんなつまらない生き物をお創りになったのだろう」と疑問を抱きながら「みっともない」「にぶい」「ぱっとしない」「こまった」生物を次々と登場させる。
本書の題名にもなっているナマケモノは、その名の通り本当に怠け者である。一日中寝てばかりで、エサを食べるのも面倒くさそう(余談だが僕の口ぐせもメンドークサイである)。ナマケモノはその性格からエネルギーを無駄に消費しない。
ナマケモノは動くのが面倒なので、敵からも見つからない。動かないナマケモノは体にコケが生えてカムフラージュして身が守れるという。ナマケモノゆえのスローな動きのために、戦略的に生存競争を勝ち抜くことができた。「だからね、寝てばかりいるナマケモノも、そのままでいいんだよ」と著者は言う。
カタツムリがつまらないとは僕は思わない。それよりつまらないのは人間ではないのか。僕はここで著者と考えが一致する。本当につまらない生き物を著者は見つけた。
「ヒト」である。戦争を起こし、欲深く、自分勝手に地球をおかしな大義名分を理由に壊してしまう。「神さまはどうして、こんなつまらない生き物をお創りになったのだろう」。そんな人間を「あなたは、あなたのままでいいんだよ」と言っていいのかな。
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いながき・ひでひろ 1968年生まれ。静岡大教授。専門は雑草生態学。『世界史を大きく動かした植物』など。