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今村翔吾さん×山崎怜奈さんのラジオ番組「言って聞かせて」が2年目に突入! ゲストは『三省堂国語辞典から消えたことば辞典』の見坊行徳さん

見坊さん流の辞書の楽しみ方とは?

『三省堂国語辞典から消えたことば辞典』の著者で、校閲者の見坊行徳さんを招いてのトークです。

山崎:見坊さんと今村先生はご面識は? 

今村:ないですね。おじいさまのお名前は存じ上げております。お会いしたことはないですが、辞書界の中興の祖というか、レジェンドですよね?

山崎:はい。本日のゲスト、見坊行徳さんは、『三省堂国語辞典』の初代編集主幹・見坊豪紀(けんぼう・ひでとし)さんのお孫さんでいらっしゃいます。

 行徳さんは、1985年生まれ、神奈川県のご出身。早稲田大学国際教養学部をご卒業。在学中に「早稲田大学辞書研究会」を発足させ、『早稲田大辞書』を編纂。YouTubeの「辞書部屋チャンネル」では辞書の面白さも発信されております。YouTubeは出版のお仕事をされながら?

見坊:そうですね。校閲の会社で働いていたんですけれど、そのときから「早稲田大学辞書研究会」を一緒に立ち上げた稲川智樹さんと運営しています。

今村:どういうチャンネルなんですか? 辞書のワードを何か拾っていくような?

見坊:コンセプトとしては、辞書の楽しさ、面白さを発信しようということでやっています。辞書の特定の単語や見出しを取り上げて、読み比べ、引き比べをして、「この辞書にはこう書いてあるけど、こちらには別のことが書いてある」といったようなことを発信しています。

 私も稲川さんも辞書マニアなので、どうしてこれが面白いのか、どうしてこういう書き方をしているのか、ちょっと掘り下げながら発信しようと努めています。

山崎:素人からすると「こういう言葉が辞書に載っているんだ」という発見があったり、「この言葉、誤用していたな」とか「こういう意味があるんだ」といったことに面白みを感じたりするんですけど、他にも何か楽しみ方はありますか?

見坊:例えば『新明解国語辞典』の場合、「運用」欄というのがあります。場面ごとの意味合いを紹介するもので、例えば、ちょっと古めかしい感じの語感がある「ナニ」。「『奥さんもいっしょにどうだい』『今 女房はナニでして』」といった「運用」が載っているんです。そういったコメントや補注を辞書ごとに読み比べていくと、すごく面白いです。

今村:誤用は作家的には結構困っているんです。誤用表現の方が世間に広まっていて、あえて誤用表現を使ってみると「こいつ、分かってないな」と思われて、逆に本来の言葉でいくと伝わらないことがある。だから別のワードを探しに行く......。そういうことは結構あるかもしれない。

見坊:「確信犯」とかですかね。

今村:そうそう。あと楽しみ方としては、中1男子のノリだけど、ちょっとエッチなワードを調べてみたことは、絶対あるあるだと思う(笑)。

山崎:電子辞書の時代だけれど、確かに学生時代に電子辞書で調べている人はいたかもしれないです(笑)。

見坊:電子辞書は検索履歴が残るので、後で見られてはまずいと思って、履歴を消したりするんですよね(笑)。

『三省堂国語辞典から消えたことば辞典』について詳しく知る

どんな言葉が辞典から消えた?

『三省堂国語辞典から消えたことば辞典』の中身を具体的に見ていきます。「ファミコン」や「聖徳太子」などの言葉が消えた理由とは......?

山崎:改めてなぜ『三省堂国語辞典から消えたことば辞典』を作ろうと思ったのですか?

見坊:2021年に『三省堂国語辞典』という辞書の最新版(第8版)が出ました。そのときに「辞書から消えた言葉が気になる」という方が非常に多く、テレビやラジオでも特集が組まれたんですね。その需要の盛り上がりに応えるという形で企画されました。

今村:どういう言葉が消えていくんですか? 最近生まれた言葉だけど、定着しなかった言葉?

見坊:そうですね。「続くだろうと思って載せていた言葉が短命で終わってしまった」というのも当然ありますし、「古くからある言葉だけれど、さすがに使わない」ということで消える言葉もあります。

山崎:(本に目を通して)えっ! 「ファミコン」が消えちゃったんですね?

見坊:はい。これは辞書ごとの編集方針に関わっています。『三省堂国語辞典』は『広辞苑』のような辞書よりも小さいサイズの辞書なので、固有名詞をあまり載せないという方針になりまして。

 ファミコンは固有名詞ですよね?昔だったらTVゲーム全般を指す言葉として使っていたかもしれませんが、今はプレステやスイッチといったゲーム機もあるので、ファミコンという項目は消えました。

山崎:「聖徳太子」も消えている!

今村:これはお札とともにかな?

見坊:はい。おっしゃる通り、「聖徳太子」は歴史用語としての「聖徳太子」ではなく、1万円札の代名詞として使われていたので、載せていたんです。

山崎:「聖徳太子」という項目自体がごっそり消えたわけではなくて、意味の部分が消えたということですか?

見坊:『三省堂国語辞典』の場合は、もともと歴史上の人物としての「聖徳太子」は固有名詞で載っていないので、項目自体が消えたということになります。

山崎:なるほど。だいたいどのぐらいの言葉が入れ替わるんですか?

見坊:実は辞書によって異なるんですね。現代語に密着するという姿勢が強く示されている『三省堂国語辞典』の場合、本当に最近の言葉の移り変わりが激しいこともあって、入れ替わりも多いです。全体で8万4000語入っていますが、今回の8版で消えた言葉が1100語あります。

山崎:消えた言葉の中には、いわゆる「死語」のように全く使われなくなった言葉もあれば、あるといえばあるけど時代に合ってない言葉、例えば差別・軽蔑するような言葉もあるわけですよね?それらは時代とともに軽蔑や差別に対する意識が変わっていったのか、使わない方がいいけど辞書には載せていいよねと編集方針が変わっていったのか......。

見坊:両方あると思います。例えば『三省堂国語辞典』の8版の場合、ジェンダーに関する蔑視の言葉や、「ボイン」といったいわゆる性俗語を載せるのをやめました。

今村:「片鎌槍(かたかまやり)」もなくなっている!

見坊:これはですね、読者の方から「これは『三省堂国語辞典』には要らないのでは」というご意見があったらしく。

山崎:そういう読者の方の意見から消える言葉もあるんですね。

今村:ちなみに「十文字槍」は載っているんですか?

見坊:いや、載っていないですね。三省堂の場合は『大辞林』など、もっと大きい辞書には載っていると思います。

山崎:1回消えて、また戻った言葉はあるんですか?

見坊:あります。『三省堂国語辞典から消えたことば辞典』には掲載版を表すゲージが設けられているので、「昔は載っていたけれど、途中で落ちて、再び載った言葉」などが一目で探せます。例えば「振り売り」。天秤のように籠を下げて、声を出して物を売り歩く人を言いますが、あくまで推測ですが、最近また振り売りの人が増えているとうことで復活したと思われます。

今村:確かに、駅で果物を売っている人とかいますよね。......「カチューム」って初めて知ったけど、1回しか載ってない。和製英語で、カチューシャのように見えるゴムで留めるヘアバンド。2010年ごろから流行、だって。

山崎:カチュームと言っていたかどうか定かではないですけど、確かにありましたね。『ポニーテールとシュシュ』というAKB48さんの曲がありますけど、「シュシュ」という言葉も時代とともにあまり見なくなりましたもんね。

掲載版ゲージやイラストでも楽しめる

『三省堂国語辞典から消えたことば辞典』から読み解けるもの、感じられるものとは――?

今村:差別的な用語だから何でもかんでも削るというのは、僕は反対。その時代の人たちがその差別用語を使っていたという歴史はやっぱり残しておかないと。「今は差別的な用語です」ということも付け加えて、残してほしいな。

見坊:そうですね。物によっては「差別的なことば」という注釈をつけて載っている言葉もあります。

今村:時代小説を書いていたら、セリフの中で差別的な表現を使わざるを得ないときもあるのでね......。

見坊:お侍さんが農民に対して「百姓」と言うなどですかね。

今村:そうそう。何か知らなくても、調べられる環境は整っていてほしいなと思っています。

山崎:そのときの世の中で「悪しき言葉」とされるような言葉を潰して、なかったことにするというのは、ちょっと乱暴でもありますもんね。

今村:そうだよね。そのときの風潮を知って、こういう風に変えてきたという人間の歴史、言葉の歴史が消えてしまいそうな気がして。この言葉はいつなくなったんだろうと調べるきっかけにもなると思うんだよね。

山崎:それではお時間も迫って参りましたので、見坊さんからお知らせをお願いします。

見坊:『三省堂国語辞典から消えたことば辞典』は、前身の『明解国語辞典』から『三省堂国語辞典』に至るまで80年間の歴史の中で消えてきた言葉1000語が集められています。

 当時の辞書の紙面をふんだんに使っているので、読んでいるだけで紙面の移り変わりを楽しめますし、掲載版ゲージや挿絵もいっぱい付いています。言葉の背景を伝える脚注も頑張りました。

山崎:だいぶ昔になくなってしまった言葉や載らなくなってしまった言葉などがわかりやすく、令和の時代に生きる我々にも伝わるように、イラストなどで説明されています。

 だからこそ「聞いたことないけど、これって、このことだったんだ」と納得ができますし、面白い。多くの人に読んでいただきたいなと思いました。見坊さん、ありがとうございました!

『三省堂国語辞典から消えたことば辞典』について詳しく知る