「科学でかなえる世界征服」書評 文明の弱点突く敵役を全力応援
ISBN: 9784152102553
発売⽇： 2023/07/19
サイズ: １９ｃｍ／４４３ｐ
「科学でかなえる世界征服」 ［著］ライアン・ノース
いつも正しく心優しい「ザ・スーパーヒーロー」は、もちろんカッコイイ。しかし、優等生すぎてなんかつまんない、とひねくれ影のある敵役に肩入れしてしまう。そのような気持ちに心当たりがある方も多いはずだ。そんな敵キャラを本書は全力で応援する。
バットマンやスパイダーマンなどで有名なアメリカンコミックスの原作者も務める著者は、スーパーヒーローの弱点を突くのもお手の物。我々が正当だと思い込んでいる世界文明の弱点を見いだし、潜在的な征服者である我々に教えてくれるのである。
その手始めは秘密基地の作り方。衛星で常に監視され、未知の土地もほとんどない地球の一体どこに“秘密”の基地など作れるのだろう。海の上？ 海の中？ はたまた火山の中？ 本書では、これらの野望が現実的、かつ科学的に可能であるのかを検証する。まだまだスケールの小さい小悪党による過去の失敗を反面教師とし、作者が見積もる秘密基地の材料費は５９億ドル（約９千億円）。どんな基地だろうかと想像をしながら読み始めてほしい。さらに世界文明の弱点を突くために狙うのはインターネット。世界を繫（つな）ぐネットワークを破壊する方法までをも指南する。
ヒーローになるか悪人になるかは紙一重。その時代の主流によって変化する。本書の指南のように世界を“科学的に”ひっくり返せばそれが正義にならないとも限らないし、実はスケールが大きすぎて一般社会の常識とそぐわないというだけで悪人にされているのかも知れない。
科学はワクワクで満ちている。その胸の高鳴りは、冒険家が未知の土地を前にして感じるものとなんら変わりはない。科学を相棒にすれば、自分が世界を変え得る。本書を片手に、安楽椅子探偵ならぬ、安楽椅子征服者として、陰謀を練ろうではないか。それは、世界を今より良くする陰謀にもなり得るのだ。
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Ryan North 作家。著書に『ゼロからつくる科学文明』など。コミック作家としての顔も持つ。
