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「戦争が町にやってくる」ウクライナの絵本作家、日本の小学生と交流 「アートで戦争を終わりに」

児童の感想に笑顔を見せるロマナ・ロマニーシンさん(右)とアンドリー・レシヴさん

 ウクライナの絵本作家、ロマナ・ロマニーシンさんとアンドリー・レシヴさんが先月来日し、東京都調布市の桐朋小学校で6年生の児童61人と交流した。

 ロマナさんとアンドリーさんは、ウクライナのリビウを拠点にユニットで絵本の創作やアーティスト活動をしている。昨年邦訳が刊行された絵本「戦争が町にやってくる」(金原瑞人訳、ブロンズ新社)は、2014年のロシアによるクリミア侵攻を経験したことから生まれた作品。あらゆる人を傷つける戦争に、光と歌で打ち勝つ物語だ。7月時点で24言語に翻訳され、アニメーション化や舞台化もされている。

 2人はスライドを使いながら児童たちにウクライナでの現状を説明した。空襲警報が鳴るとシェルターである学校へ逃げ込むこと。長いときには一日中シェルターで過ごすこと。緊張を強いられる状況が語られたあと、スライドにはアイスを手に、笑顔で写真に納まる2人が映し出された。

 「戦争中もたくさんの花を育てたり、暑いときにはベランダでアイスティーを飲んだりしています。戦争が始まってからはじめて、日常の大切さがわかった。静かな時間、楽しい時間を自分で作るように心掛けています」

 笑顔で過ごす2人の姿に、児童からは「警報が鳴っているなかで日常を送れることに驚いた」「戦禍でも笑顔でいられてすごい」という感想があがった。ロマナさんは、「笑顔でいることはちょっとしたセラピー。明日どうなるかわからないからこそ、短くても自分の大切な時間を楽しもうとしている」と応じた。

 児童から、「『戦争が町にやってくる』を作るときに、戦争経験を思いだしてつらくなりませんでしたか?」という質問もあった。ロマナさんは、「悲しいとき、つらいときもあった。数人の友達はこの戦争で命を落としている」としながら「この本を希望として作ろうと思った。私たちはアートという強力な武器を持っている。アートで戦争を終わりに近づけようとしている」と語った。

 最後にあがった「日本にいる私たちができることを教えてください」という質問に、アンドリーさんはこう答えた。「今日、この場であたたかい雰囲気を感じられたことに感動している。あなたたちにできることは一つだけ。しっかりと勉強することです」(田中瞳子)

「戦争が町にやってくる」の一場面。電球やバルーン、紙飛行機といった壊れやすい素材を模した登場人物たちが、戦争へ巻き込まれていく=ブロンズ新社提供

本を抱きしめ逃げる子たち、破壊の中でも描き続ける

 児童との交流を終えた2人は、報道陣の合同取材に応じた。

――「戦争が町にやってくる」の邦訳がウクライナ侵攻のさなかである昨年刊行されたことをどう感じているか。

アンドリー この絵本を作り始めたのは2014年だった。絵本の最後では戦争が終わる。ハッピーエンディングに疑問を抱いたときもあったけれど、いまはこの作品が希望につながると思っている。

――ウクライナの子供たちにとって、いま絵本はどのような存在か。

ロマナ シェルターへ本を抱きしめていく子供たちの姿も目にする。本を触ることで子供たちの表情も変わっていき、セラピーの一つになっていることがわかる。

――戦争中に感じていたことは。

アンドリー 一番大きなチャレンジは、じっとすること、待つことだった。やってくるのは痛み、死、街の破壊……。そのなかで自分の居場所、やりたいことを見つけ出すのは難しいことだった。

ロマナ 怒りを絵にぶつけてしまっているのではないかと思い、アーティストとしての活動を続けることを迷った時期もあった。あらゆる活動を遅らせ、日常生活をなくすことは敵の狙いの一つでもある。だからこそいまは、短い時間であっても効率的に、本を作る活動に使っていきたい。=朝日新聞2023年10月18日掲載