「続 窓ぎわのトットちゃん」書評 今なお繰り返される戦火の犠牲
ISBN: 9784065296714
発売⽇: 2023/10/03
サイズ: 20cm/253p
「続 窓ぎわのトットちゃん」 [著]黒柳徹子
防空壕(ごう)の隙間から空を見上げると、空が一面まっ赤に染まっているのがわかった。焼夷(しょうい)弾が落ちて火事になって、空が赤くなるのはそれまでに何度も見ていたけど、その夜の空は恐ろしいほどの赤さだった。
本書のこの一節は、子どもの目に映った光景を描いたものだ。いつの出来事かと思わずにいられない。ここ数週間、炎で染まるガザの空が画面に映し出されてきたからだ。しかしこれは1945年の東京大空襲。そして昔も今も、まっ赤な空の下で、多数の子どもたちが死んだ。
トットちゃんは当時11歳。夜なのに空があまりに明るいので、防空壕を飛び出して家に戻り、ランドセルから本を出して庭で広げてみた。そうしたら本が読めたという。約十万人が犠牲になった夜、トットちゃんは眠れずに過ごした。
子どもの笑い声で溢(あふ)れたトモエ学園は、B29から落とされた焼夷弾で焼かれた。トットちゃんの1日の食料は大豆15粒のみ。もうすぐ死ぬかもしれないから、いま食べちゃうか数粒とっておくか悩んだ。パパは戦地に出征し、ママは子どもたちと青森県に疎開した。ママは生まれてはじめて働きに出た。行商人として手腕を発揮し、建築資金を貯(た)め、焼けた家と同じ赤い屋根と白い壁の家を再建した。大奮闘に恐れ入る。
トットちゃんの戦争体験は、戦前の裕福な暮らしと、戦後の芸能界での活躍の話の間に挿入されていて、その非日常性が際立つ。著者の黒柳さんは、ウクライナ侵攻に胸を痛めて戦争体験を本にまとめておこうと続編を執筆したという。そして本書が出版されて幾日もたたないうちに、中東で空の色が変わった。
現地ではすでに数千人の子どもが襲撃や爆撃を受けて亡くなったと報道されている。なぜ野蛮な暴力は繰り返されるのか。今こそ人間性について議論を重ねるときだ。私たちはたしかにトットちゃんの言葉を受け取ったのだから。
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くろやなぎ・てつこ 東京都生まれ。俳優、司会者、エッセイスト。1984年からユニセフ親善大使。