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ブラインドマラソンのリアリティーが宿る傑作「風が吹いたり、花が散ったり」 吉田大助が薦める新刊文庫3点

  1. 『風が吹いたり、花が散ったり』 朝倉宏景著 講談社文庫 891円
  2. 『十の輪をくぐる』 辻堂ゆめ著 小学館文庫 979円
  3. 『ひゃっか!』 今村翔吾著 ハルキ文庫 836円

 ブラインドマラソンを題材にした(1)は、視覚に障害を負った女性ランナー・さちと出会い、伴走者を務めることになったフリーター・亮磨の物語。赤いロープを握り合って走る身体感覚や責任感の描写に、この競技ならではのリアリティが宿る。亮磨は夢を叶(かな)えようと努力するさちの隣で走ることで、過去に囚(とら)われ同じ場所で足踏みし続けてきた、今までの自分を変える。恋の香りも程良い、青春成長小説の傑作だ。

 (2)は二度の東京オリンピックを軸に、過去と現在が交錯する大河小説。定年間近の会社員・泰介は、認知症の母・万津子が突然「私は……東洋の魔女」と呟(つぶや)いたことに驚き――。実はその言葉には、続きがあった。若き日の万津子は、「東洋の魔女」の異名を持ち一度目の東京オリンピックで金メダルを獲得した女子バレーボールチームから勇気をもらっていたのだ。そして、ある決断をしていた。ラストの展開は感涙必至。

 歴史作家として知られる著者が手がけた現代もの(3)は、実在する華道の大会「全国高校生花いけバトル」がモチーフ。二人一組となって花をいける競技の際、「所作」も審査対象になっている点がスポーツの興奮を招き寄せている。「それ、ありなの?!」という型破りな戦法が披露される、決勝戦がベストバウトだ。

 生活上の必然から逸脱した動きをするスポーツは、競技者のみならず観戦者にも、身体の可能性と共に自由であることの喜びを感じさせる。この三作も、読み終えた時少し自由になれた気がした。=2023年12月16日掲載