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ディック・フランシスの息子によって蘇った新・競馬シリーズ「覚悟」 若林踏が薦める文庫この新刊!

  1. 『覚悟』 フェリックス・フランシス著、加賀山卓朗訳 文春文庫 1265円
  2. 『円環』 アルネ・ダール著、矢島真理訳 小学館文庫 1408円
  3. 『あかずめの匣(はこ)』 滝川さり著 角川ホラー文庫 858円

 不屈のヒーローが帰ってきた。故ディック・フランシスの〈競馬〉シリーズに登場し、冒険小説の新たな主人公像を打ち立てた元騎手の調査員シッド・ハレー。往年の翻訳ミステリファンから絶大な支持を得るキャラクターが、ディックの息子フェリックスの手によって蘇(よみがえ)ったのが(1)だ。娘が生まれ、調査員の仕事から離れると固く心に誓っていたハレーだったが、競馬レースの不正調査を依頼してきた人物の変死をきっかけに不穏な出来事に巻き込まれていく。狡猾(こうかつ)で卑劣な敵と対峙(たいじ)し、困難を克服しようとするハレーの雄姿は健在だ。フェリックスによる〈新・競馬〉シリーズの紹介は続く予定とのことで大いに期待したい。

 (2)はスウェーデンの作家アルネ・ダールによる新たな警察小説シリーズの第一作。個性的な登場人物と起伏の激しい展開がダール作品の特徴だが、本作でも連続爆破事件を追う特捜班〈Nova〉のメンバーと、森の中で隠遁(いんとん)生活を送る元警部ルーカス・フリセルら個性が際立つキャラクター達(たち)がぶつかり合い、先の読めない物語が紡がれていく。伏線の張り方も大胆で、謎解きが好きな読者も気に入るはずだ。

 昨今のホラー小説ブームを特徴づけるものの一つに謎解きミステリの技法の応用が挙げられるが、(3)もその一つ。小説内では「あかずめ」という怪異にまつわる四つの物語が収められている。恐怖小説として個々の物語を堪能しつつ、手掛かりを基にした論理的な推理によってパズルが完成していく楽しみも込められた作品になっている。=朝日新聞2025年5月17日掲載