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「グローバルインフレーションの深層」書評 綱渡りの日本経済 物価が焦点

評者: 神林龍 / 朝⽇新聞掲載:2024年01月20日
グローバルインフレーションの深層 著者:河野 龍太郎 出版社:慶應義塾大学出版会 ジャンル:経済

ISBN: 9784766429343
発売⽇: 2023/12/11
サイズ: 20cm/305p

「グローバルインフレーションの深層」 [著]河野龍太郎

 なんとも重苦しい幕開けとなった2024年。乗り越えるには相当なエネルギーが必要で、それをどうまとめるか、政治の力が問われる年になるだろう。
 ではあるが、今回は最近の経済の動向を解説した書籍を紹介する。熱い政治談義に気を取られ、日本経済がそろりそろりと綱渡りを続けている現実を忘れて欲しくないからだ。
 経済が今にも破綻(はたん)するという脅し文句は、もう思い出せないほど前から繰り返されてきた。しかしそのたびエコノミストの警告は外れ続けている。今までの警告がなぜ間違えてきたのか、本書を紐解(ひもと)くと、そのポイントが理解できる。
 前著『成長の臨界』での労働市場や税制の議論を踏まえ、本書で取り上げられるトピックは、一時期1ドル150円を超えた円安の評価と見通し、日米欧の中央銀行の行動、とどまるところを知らない財政投入の影響などである。それぞれの論点で影響力のある学術論文の解説を軸に、それまでの議論の経緯と最近の解釈を平易にまとめている。
 本題であるインフレーションのメカニズムはかなり難しい。ひとびとが将来の物価をどう予想しているかが問題になるからだ。
 中央銀行はこのひとびとの予想を考慮して、極端に市場が暴れないようにさまざまに制御しようとしている。同時に、物価はモノの価格でもあり、需要と供給に応じるという原理にも基づいている。近年の戦争や中印などによる貿易構造の変化を見聞きすれば、ひとびとの予想が不変でも、物価は需給に応じて動いているとも理解できる。限られたデータの中で、どちらの要素がどれだけ影響していると判断するかが評価の分かれ目になる。本書が元凶とするのは、財政支出だ。
 本書に納得するかどうか、頭脳を酷使する読書になることは間違いない。SNSのような脊髄(せきずい)反射をしばし離れ、冷静に経済について考える機会だと思っていただきたい。
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こうの・りゅうたろう 1964年生まれ。BNPパリバ証券チーフエコノミスト。著書に『成長の臨界』など。