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「工藤直子全詩集」 生きる喜び・切なさ詰まった70年の詩作1100編余り

全詩集を出した詩人の工藤直子さん=理論社提供

 「のはらうた」の仲間たちと言葉で遊んできた詩人、工藤直子さん。昨年出版された「工藤直子全詩集」(理論社)には10代で作った未発表の詩を含め、1100編余が収められた。70年にわたる詩作をたどれば、生きる喜びや切なさがつまっている。

 かぜみつる、かまきりりゅうじ、へびいちのすけ。そんな名前の生き物たちがつぶやいた詩「のはらうた」(童話屋)は教科書にも載り、子どもたちにおなじみだ。

 子どもの気持ちで書いたのではなく、いまも子どもだと88歳の工藤さんは話す。「私の中では3歳から10歳までの記憶がほとんどです。大人のふりをしていますが」と笑う。

 工藤さんの作品は擬人化が多いといわれるが、擬自然化だという。「自然に模して、ものが見えるんです。人もいろいろなものに見える。山のような人がいたり、大きなもので包んでくれるような人がいたり」

 詩は読んだ人が好きなように感じてくれるのが一番だと思う。「こんなふうに好きだよ、と読み手が見つけてくれて、ひいきにしてくれる。そうなったら、それは直子に書かせたあなたの詩だと思って下さい」

 全詩集の企画は30年ほど前からあった。「まど・みちお全詩集」を手がけたことで知られる編集者の伊藤英治さんが次代に伝えたい詩人として阪田寛夫さん、工藤さんと続けて作りたいと準備していた。だが、伊藤さんは思いを残して2010年に病死した。その遺志を継いだ編集者の市河紀子さんが完成させた。

 冒頭の詩は11行の「死」。14歳で書いた未発表のものだ。小さい時から死は大きなテーマだった。幼くして母親を亡くしたこともあるかもしれないという。虫や動物が生まれては死んでいくことを考えた。

 元気に遊んだ日の夜ほど怖かった。寝床で泣いていると、父親がふすまをあけ「どうした」と尋ねてくれた。でも「死ぬのが怖い」と言ってはいけないと思った。怖い夢をみたとうそをついた。「こっちに来なさい」と父親はあぐらを組んだひざに座らせてくれて、仕事を続けた。すると安心した。

 「50歳近くまで、死は私の枕詞(まくらことば)のようでした。ある意味で生きていく上のバネになった。いまだに死はおっかないといえばおっかないけどね」

 詩は何か目的を持って書いているわけでも、だれかに賛成してほしくて書いているわけでもないという。「ひとり言なんです。人生かけて自家版を作っている気がします」

 工藤さんのひとり言から、限りある命を持つ仲間がこの世界にはいっぱいいるんだと多くの人が心強く感じるのではないか。言葉の一つ一つが生きる光を放っているから。

 言葉にたくさん遊んでもらった。80代になって「言葉に、じゃあねと、ちょっとサヨナラしました。これからは肌感覚でいくからね~って。皮膚感覚で世界とコミュニケーションしている感じになりました」。

 いま、工藤さんがなりたいのはナナホシテントウ。「かっこいいから」

 若いころは大きなものにあこがれた。クジラやライオンになりたかった。年を重ね、どんどん小さくなった。トカゲ、トンボ、尺取り虫。そして、とうとうテントウムシだ。

 「なぜ好きかって? テントウムシは空に飛び出したくてしょうがないんですよ。小枝などにのっけてみてごらん。てこてこてこてこ上っていく。てっぺんまで行きつくと、パッと羽を広げて飛んでいく。ここから先は空だ~って。私もテントウムシになって、大空に飛んでいきたいですね」(河合真美江)=朝日新聞2024年2月7日掲載