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「アイヌもやもや」書評 「和民族」こそが差別止められる

評者: 藤野裕子 / 朝⽇新聞掲載:2024年02月10日
アイヌもやもや 見えない化されている「わたしたち」と、そこにふれてはいけない気がしてしまう「わたしたち」の。 著者:北原 モコットゥナシ 出版社:303 BOOKS ジャンル:社会・時事

ISBN: 9784909926296
発売⽇: 2023/12/12
サイズ: 19cm/179p

「アイヌもやもや」 [著]北原 モコットゥナㇱ [漫画]田房永子

 アイヌは北海道だけにいると思う人には、本書をぜひ手に取ってほしい。目の前にいるのに、見えていないだけかもしれない。
 実際、著者は関東で生まれ育ったアイヌだ。アイヌのことを考えたいけどわからない、もやもやする思いを抱く読者にむけ、田房永子の漫画を軸に解説する。
 漫画の主人公の一人は、東京に住む、アイヌルーツを持つ高校生。アイヌは「もういない」「見たことも会ったこともない」というネット上の言葉に傷つく一方、男子校でクラス全員が「日本男児」であることを自明視する雰囲気に、自らのルーツを口に出せずにいる。
 このシーンについて、著者は次のように述べる。一民族一国家であることが自明視されるからこそ、アイヌは自らを可視化しにくい。民族的なマジョリティーを「日本人」ではなく「和民族」と呼ぶことで、日本国籍のなかに多くの民族がいることを前提に物事を考えられるのではないかと。
 解説には、明治以降にアイヌの土地やアイヌ語で生活する権利が奪われてきた歴史的な経緯、今も続く経済・教育の格差など、制度的・文化的差別が含まれる。
 それでは、和民族は何をすればよいのか。著者は、当事者の声を聞き、差別がある事実を内省的に受け止めること、そしてマジョリティーこそが積極的に加害を止められることを説く。
 この解説と連動して、漫画では差別に声をあげる人が増えていく。悪意なき差別を止めるのは、その場に居合わせた和民族だ。
 本書では、マイクロアグレッション(何げなく行われる攻撃)など、差別を理解する上で知っておくべき用語が平易に説明されている。他のマイノリティー差別との関係を理解できるようにも工夫されている。漫画と解説の筆致はやわらかく、あたたかい。ここまで読み手に配慮しないと受け取られないこと自体が、問題の深刻さを表していると感じるが、まずは本書を受け取ることから始めたい。
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きたはら・モコットゥナㇱ 北海道大アイヌ・先住民研究センター教授▽たぶさ・えいこ 漫画家、エッセイスト。