「これが生活なのかしらん♪」と語尾を上げて読んでいたけれど、もしかしたら大阪弁で「しらん!」と突き放しているのかもしれない。ご機嫌だったり、投げやりになったり、人生は忙しい。
本の中には、彼女の一人暮らしに始まり、弾むように楽しそうな友達との三人暮らし、実家暮らしでの家族との幼い頃の記憶に、心身ともに過酷な仕事での寮暮らし、そして恋人との二人暮らしとさまざまな時期がある。一冊を通して、彼女が人と関わり、人生を共にすることによる喜びと、生きることの苦しみが描かれている。細かい改行や軽いオノマトペがそこら中にちりばめられ、恐ろしくスイスイと読み進められる。どことなくふわふわとした読み心地で、全体的には柔らかい印象なのに、内容は時々重たく黒いものがあり、ふいに胸を突かれる。さまざまなことが起こるのが人生であり生活そのものだけど、彼女の筆致にかかれば、どんなことでもほの明るく、ほのおかしく照らされてしまう。
中でも私が好きだったエッセイは「雑草とホウプ」という一編。まだ彼女が若く、自分がどこへ向かうべきか迷っていた頃の話だ。あるきっかけで立ち上がれなくなり、長い時間をかけて自分の中にあるホウプ=希望と向き合い、今に繫(つな)がる決心をする。他のエッセイと変わらず、とても簡潔でやわらかい言葉なのに、彼女の中にある執念のような前を向く力が明るく表現されていて、少しだけ空気が違う。ひとりの人間の人生が立ち上がる、大事な始まりのタイミングが記録されている。
雰囲気は絵本のように牧歌的なのに、根底には「生きたい」という強い芯が垣間見える。どんな時にも光る瞬間を見つけ出せる人の書く、まるで大人向けの絵本のようなエッセイ集だ。=朝日新聞2024年9月14日掲載
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大和書房・1650円。23年10月刊。4刷1万7千部。著者は96年生まれ。「発売前から全国の独立系書店の方々が熱心に応援してくれた」と担当者。22年刊のエッセー集『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』(自費出版)は1万部を突破。