ISBN: 9784065364925
発売⽇: 2024/08/08
サイズ: 13.6×19.5cm/256p
「みかんファミリー」 [著]椰月美智子
なんて健やかな物語なんだろう。小春日和の陽(ひ)だまりに身を置いたような心地になる。
物語の語り手は、大沢美琴。祖母・節子と母・響子と暮らす中一女子だ。ある日突然、響子が中三の時の同級生で、当時は接点がなかったものの、今では仲良しの「朱美ちゃん」と共同で買った古民家に、彼女の家族(朱美の娘と孫)とともに移り住むことを宣言。美琴にとっては寝耳に水で、腹立たしい。
とはいえ、「いつまでもムカついていても仕方ない」と気持ちを切り替え、まだ見ぬ朱美の孫を想像し(予想ではまだ赤ちゃんか保育園児)、「かわいいだろうな」と思っていた美琴の前にあらわれたのは、同じ中学の一年三組・堤下野々花だった。えっ?
ヤンキーだった朱美は二十歳で優菜を産んでおり、朱美の娘・優菜もまた若くして野々花を出産。響子の同級生に孫がいるだけでも驚きなのに、自分と同い年、しかも、あの堤下とは……。
ここから、女六人の〝一つ屋根の下〟での暮らしが始まる。なかでも、入学後まだ間もない六月に、〝ヘビ騒動〟を起こし、新入生の間では名前を知らない者はいない存在になっていた、ちょっと癖のある野々花と、美琴の関係がどうなっていくのかは、本書の読みどころのひとつだ。
物語が進み、響子と朱美が共同生活を選択した理由が明かされると、はっとなる。うん、うん、いい! いい選択! とすとんと胸に落ちる。血の繫(つな)がりはないけれど、手と手を伸ばし合った先に、お互いの理解と信頼があれば、こんなふうに補いあって暮らしていけるのだ。
タイトルの「みかん」とは「未完」と「蜜柑(みかん)」にかけたもの。これも、良き。そして何より、本書がYA(ヤングアダルト)であるのがいい。人生がまだずっと先のほうまである、十代の柔らかな心にはもちろん、大人の心にも養分を与えてくれる物語だ
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やづき・みちこ 1970年生まれ。『しずかな日々』で野間児童文芸賞、坪田譲治文学賞。他の著書に『明日の食卓』など。