塔短歌会(吉川宏志さん主宰)が結成70年を記念し、「現代短歌へのアプローチ」と題したシンポジウムを1日、京都芸術劇場春秋座で開いた。ジャンルの異なる登壇者が歌の表現の可能性について語った。
作家の町田康さんはロック歌手として曲を作るなかで、歌詞の「意味と響きが二人連れで立つ」境地をさぐったという。旋律の枠にあてはめようとする方が自由自在に言葉が出てきた。「自我という牢獄をぶちこわすのが、定型だった」。今年「歌集を出してしまった反省」をふまえ、ユーモアをまじえて語った。
翻訳家のピーター・マクミランさんは万葉集や現代短歌の英語訳を手がける。その訳を読み上げて解説。万葉集は「言祝(ことほ)ぐ」といった色合いがあるが、「貧困や過労死、LGBTQといったテーマも扱い、現代的な要素があった」と話す。現代短歌も戦争やハラスメントなど社会問題をうたっていて、「人間界のアンテナだと思う。英語訳で世界に紹介したい」と語った。
映画監督の是枝裕和さんは歌人の永田和宏さんと「表現しきれないもの」と題して対談。永田さんは選者として多くの短歌を読むが、「私の言いたいことをわかって」と結句で念押しする作品が目立つと嘆く。「是枝監督の作品はこれからどうなる?というラストが多い」と投げかけると、「答えを手にしないで現場に立つ」と是枝さん。役者の演技を見て、では台本をこうしようと、その人についていく。「役者と台本の間に人物は誕生する」という。「自分では意識しないものがまぎれこみ、伝えたいと思うこと以上のものが伝わることもある」
「世界とキャッチボールすると、思いがけない発見がある。そして三十一文字に言葉を入れていくうち、こんなことを思っていたんだと自分でも驚く。それが歌を作る醍醐(だいご)味だと思う」と永田さんは話した。(河合真美江)=朝日新聞2024年9月25日掲載