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「帰ってきたコンペイトウ」書評 私の中の「魂」を目覚めさせる器

評者: 野矢茂樹 / 朝⽇新聞掲載:2024年09月28日
帰ってきたコンペイトウ Kurihara and Iriyama Toy Bottle Collection (立東舎) 著者:栗原英次 出版社:立東舎 ジャンル:哲学・思想

ISBN: 9784845640669
発売⽇: 2024/08/23
サイズ: 21×1cm/256p

「帰ってきたコンペイトウ」 [著]栗原英次、入山喜良

 むふ。むふふふふふふふふ。むふふふふふふ。むふー。なにこれ。金平糖を入れる容器だって? こんなのあるの?
 まさかりかついだ金太郎があおむけになった熊にのっかっていて、金太郎と熊の間にガラスの容器が収まっている。子どもの手のひらに乗るサイズ。頭にひもがついているのは、これに金平糖を入れて、駄菓子屋で吊(つ)り下げて売っていたから。この金太郎は1920年代のものだという。
 子ども向けだから、ただ金平糖を詰めただけではつまらない。そこで、金太郎だとかバスだとか時計だとかラッパだとか動物だとかの意匠をこらす。とはいえ子ども向けだから、というより、大正末期から昭和初期にかけてという時代だからだろう、いかにも安っぽくてぞんざいで泥臭い。でもそれが、私の中の安っぽくてぞんざいで泥臭い魂をむくむくと目覚めさせるのだ。
 本書は栗原さんと入山さんの二人が自分たちのコレクションをただひたすらみせびらかすものである。ひとつエピソードを紹介しよう。栗原さんが金太郎を手に入れたとき、ガラス容器が失われていたという。他方、入山さんは何か動物のお腹(なか)に入ってたんじゃないかなあと思いつつ、ガラス容器だけを持っていた。それがなんと、まさに栗原さんの金太郎の熊のお腹にあった容器だったという。50年の間、金平糖容器を収集してきたライバル同士の二人に起きた奇跡とも言えよう。
 そうした記事も興味深いけれど、やっぱりこれでもかと繰り出される写真に見入ってしまう。思わずむふふふふと笑みがこぼれて顔がゆるむ。他にも、ペロペロと呼ばれる砂糖菓子の器やニッキ水のガラスビンもいい。気泡の入った粗雑なガラスなのだが、その気泡でさえきれいだと思う。そう、きれいなんだ。
 私はこういう世界があることを知らなかった。ぜひ、実物を見たい。いや、そうじゃない。ほしいっ。むふー。
    ◇
くりはら・えいじ 1943年生まれ。歯科医。いりやま・きよし 1943年生まれ。歯科医。