ISBN: 9784826902663
発売⽇: 2024/12/03
サイズ: 2×19.4cm/304p
「AI・機械の手足となる労働者」 [著]モーリッツ・アルテンリート
テクノロジーが労働に及ぼす影響というと、最近はAIによって人間の仕事が奪われるというシナリオばかりに注目が集まるが、そのテクノロジーの隙間を埋めるために人間の安価な労働力が大量に投入されている点は見過ごされがちだ。検索結果の最適化や、AIの学習データの提供、コンテンツ・モデレーション(ネットへの投稿内容の適切性の判断)といった仕事がそれらに当たる。そこでは、仕事はタスクごとに細かく分解され、出来高払いで行われる。企業にとっては、需要の波に対応できる柔軟な雇用ということになるが、実態は劣悪な仕事であることが多いという。というのも、労働者はアルゴリズムによって秒単位で監視されており、少しでも生産性が低ければ使われなくなるからだ。
デジタル技術によって労働の成果を精密に測定できるようになると、企業にとって長期的な雇用契約は不要になる。工場労働者を科学的に管理する手法はテイラー主義と呼ばれたが、現代のテイラー主義ともいえるこれらの潮流に学術的に迫ったのが本書だ。
本書は、デジタル技術による労働環境の変化をあたかも全く新しい現象かのように喧伝(けんでん)することはしない。だが一方で、それらがかつてのテイラー主義とは異なる側面も有することを的確に指摘している。それは、クラウド・ソーシング(ネットでの不特定多数者への業務委託)のように労働力が工場内に留(とど)まらず空間的に分散している点だ。世界全体が工場化しているとも言える。また、労働者が均質的でなくても管理できる点も新しい。
労働者が非同質的で、互いの存在を知ることもないと、雇用者に対して連帯することが難しくなる。それどころか、労働者は自分のしている業務がどのような目的の下におこなわれているのかしばしば理解できず、まさに機械の手足となっている。仕事の未来を真に占うのは、本書のような内容ではないだろうか。
◇
Moritz Altenried フンボルト大ベルリンのヨーロッパ民族学研究所およびベルリン経験的統合・移民研究所の研究員。