「スクリーンのなかの障害」書評 映画が得る新たな表現の可能性

ISBN: 9784845923113
発売⽇: 2024/11/26
サイズ: 18.8×2.5cm/224p
「スクリーンのなかの障害」 [著]塙幸枝
〝映画のなかの○○〟を論じた本は数限りなくあるけれど、本書を目にしてはじめて、障害についての本には出会ったことがなかったと気づく。障害が可視化されづらく、語りづらいことのあらわれだろう。
本書は前半で、社会における障害の位置づけの通時的変化を追い、それをゆるやかに反映する、映画のなかの障害者像をたどる。前提として、障害という概念の発生から認識の見直しにいたる障害学の理論的枠組みがわかりやすく解説され理解を助ける。『フリークス』『エレファント・マン』『フォレスト・ガンプ』といった古今の名作を経由して浮かび上がる、「恐れ」「差別」の対象から「哀れみ」そして「共生」の対象へという描かれ方の変遷は、たとえば『セルロイド・クローゼット』が描いた同性愛者像へのそれとも類似する(同性愛は長く精神疾患とされてきた歴史がある)。大事なのは、そこに隠れた排除の構造を読みとくことだ。
聴覚障害をめぐる「聞こえないこと」を論じた第4章では、音響がいかに映画の語りの重要な一部であるかがよくわかる。実在する女性ボクサーを描く『ケイコ 目を澄ませて』とその分析は、障害表象をとおして健常者が、そして映画というメディアが得る新たな表現の可能性に目が覚める思いがした。
障害者の役を健常者が演じるときの「リアリティの有無」をめぐる最終章も、演技やフィクションとは何かや、当事者キャスティングとハリウッドで定番化しつつある人種的配慮などポリティカル・コレクトネスの行方を考えるための有益な視座を与えてくれる。
表象され、可視化する/されることは、消費され、支配的な文化に取り込まれる危険と表裏一体だ。障害表象のあり方はもとより、フィクションのリアリティや、アイデンティティの政治といったさまざまな問題系に接続する、連帯と協働の可能性に満ちた本だ。
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ばん・ゆきえ 1988年生まれ。成城大准教授(コミュニケーション学、メディア論)。著書に『障害者と笑い』。