劇団ひとりさんMCで新番組、言葉に向き合う新鮮さが面白い(第1回)

【今回のテーマ】この「感動」を言い表す〝わたしだけの言葉″ありませんか?
新番組「わたしの日々が、言葉になるまで」は、日常のあれこれを言語化するヒントを探る日常言語化バラエティーです。劇団ひとりさんはWEST.の桐山照史さんを相棒にMCを務められます。意気込みはいかがですか。
「お笑いだったり映画の脚本や小説だったり、僕も日ごろ言葉を扱う商売をしていますが、じつはちゃんと言葉に向き合う機会ってなかったんですよね。それを言葉のプロのみなさんと話し合うっていうのは、すごく新鮮だし、面白い。相棒の桐山君はニュートラルなスタンスでいてくれて、でもたまにすごく芯を食ったことを言うから頼りになります。今回のゲストは、小説家の朝井リョウさん、俳優で小説も書かれている松井玲奈さん、シンガーソングライターのヒグチアイさんのお三方ですが、みなさんの視点がそれぞれ違ってとても勉強になりました」
今回のテーマは「感動」を表す言葉。「ダンス・ダンス・ダンスール」では感動の表現として「爆ぜる」という言葉がよく使われているそうですね。対して松井さんは『オロローン』、桐山さんは『ふつふつ』という擬音を。ヒグチさんは「恐れる」、朝井さんは「発酵する」という動詞を挙げていらっしゃいました。
「みなさんさすがですよね。ヒグチさんの、感動によって自分で自分が理解できない状態になるのが怖いと言う意味での『恐れる』、僕もそこまではいかないけど、そわそわしちゃうときはあるんです。いい映画を観終わったあと、『いいのかな、これ。普通に喫茶店でコーヒー飲んでていいのかな』って。ただ、僕はうまい比喩や凝った表現に出会うと、気になってしまうんです。ほんとにそんなこと思ってたの? こんな表現する俺、すごいだろって思っちゃってない?って」
朝井リョウさんからは「ひとりさんの(純粋な言葉かどうかの)警察が厳しい」という指摘がありましたね(笑)。
「ヒグチさんも言ってたけど、映画の感想を言うにしても、〝うまい感想を言えた俺″が先に立っちゃってる人っているじゃないですか。やっぱり表現ってどうしたってそうなっちゃうんですよ。すごいと思われたくなっちゃう。少なくとも僕はそうです。だから、それをいかにして消してくか、抑えるかっていうのを大事にしています。それが抑えきれてないものは、欲が透けて見えて、こっちが恥ずかしくなっちゃう。本だったらばたんと閉じてしまいます」
ご自身はどうやって純粋な言葉を作っていますか。
「これはもう正解がないんでね。誰がジャッジするかって言ったら自分しかいないんですよね。だから、僕は書いたものは必ず口に出して言ってみるんです。脚本だったら立って動きながらセリフを言ってみる。それを自分の耳で聞いた時に違和感があったら、それは何かが違うってことだから書き直します。映画の現場ではよく、『このセリフ、言えません』ってことがあるんですよ。台本に書かれてあるけれど、役者さんがその人物になりきったとき、どうもこのセリフだと違和感がある。それがストーリーを進めるために無理やり入れたセリフだったりするんです。作者の都合で言わせたくなる言葉を書いてないか、というのは常に気を付けていますね」
普通の人たちが日常で感動を伝えたいときは、どんな工夫ができると思いますか。
「生兵法はケガの元ですから、一番素直な言葉をシンプルにやった方がいいと思います。今回、ゲストの皆さんとあれこれ感動の言葉を探しましたが、ほめ言葉の難しさに気づきました。みんな何かを酷評するときはもう本当に情熱的に言葉がよどみなく出てくるんですよ。でもほめるときになると、急に言葉が出てこなくなる。もしかしたら、これは学校教育の影響もあるのかもしれない。僕の時代は、『この問題点を挙げなさい』ってよく言われてた気がするんです。そうじゃなくて、『これの良い点、素晴らしい点を言いなさい』と幼いころから何かをほめる練習をしていれば、もっと自然にほめ言葉が出るようになるかもしれません。大人になってからも、日常的に意識してほめていくことが、感動の表現を磨くことにつながるかもしれませんね」
誰かに向けて発する言葉じゃなくて、この感動を自分のものにしたいときにはどうやって言語化すればいいでしょうか。
「僕、それだったらずっと訓練してきたかもしれません。若い頃からずっと毎日日記をつけているんです。大体、朝書くんですよ。その日の予定を書くこともあるけど、昨日を振り返って嬉しかったことや悩みを描くこともある。2、3行のときもあれば、だらだらと何ページも書くこともある」
それが創作のヒントになることも?
「わかりませんね。まず読み返しませんからね。書くと頭がすっきりするから習慣になってるだけで。ヒグチさんが、感じたことを言語化することは自分のセーブポイントを作ることだっておっしゃってたんです。ああ、このときのこの感情知ってるなって。僕の日記もそういう役割があるのかもしれませんね」
番組では、そのほかにも様々な「感動」を伝えるためのヒントがありましたが、とくに印象的だったのは?
「朝井さんが『感情が起こった時に体にどういう変化が起きるのかを意識している』とお話されていたのが面白かったです。身体表現で感情を表す。僕も今度感動することがあったら、体に意識を向けてみます。この番組って、ひとつの言葉をみんなで話し合うのが本当に面白い。僕の表現も番組を通してどんどん磨いていきたいです」
【番組情報】
「わたしの日々が、言葉になるまで」(Eテレ、毎週土曜20:45~21:14/再放送 Eテレ 毎週木曜14:35~15:04/配信 NHKプラス https://www.nhk.jp/p/ts/MK4VKM4JJY/plus/)。次回の放送は4月12日(土)20:45~。新生活をテーマに「出会いと別れ」のシーンで使える言葉を探究します。