八木莉可子さん「〈友達〉って言葉じゃ足りない友がいます」(第6回)

【今回のテーマ】青春って、一体なに?/「大切な友だち」を表す言葉
日常言語化バラエティー番組「わたしの日々が、言葉になるまで」。MCの劇団ひとりさん、WEST.の桐山照史さん、wacciの橋口洋平さん、小説家の村田沙耶香さんとともに、3回にわたって言葉の世界を探究した八木さん。どんな気づきがありましたか。
「私は今まで気持ちを言語化することを怖がっていたんです。嫉妬とか怒りとか意識の底に抑え込んでおきたい感情を言葉にしてしまうと、それが〈在る〉ことになってしまう気がして。でも、みなさんと話し合ううちに、言葉にすることはその感情を抱いた自分を理解して、整理して、救うことでもあるのだなと気づかされました。
たとえば、前回は〈悪口〉がテーマだったのですが、今までは「悪口はいけないもの」と考えていたんです。でも、ひとりさんが「悪口の授業があったらいいのに」とお話しされていたように、番組で紹介された文豪たちの悪口はカラッとしていて、むしろ愛があって。品のある悪口もあるのだと知りました。必ずしもプラスの言葉ばかりを取り上げるわけではないところも、この番組の面白いところです」
これまで八木さんは言葉とどう向き合ってきましたか。
「習字が趣味だったり、大学で言語学の授業を取っていたり、言葉について昔から興味を持ってきました。言語学で面白かったのは、「私たちは世界を言語の網掛けを通して認識している」と教わったことです。たとえば、日本語には「木漏れ日」という言葉がありますが、これは木の葉の間からこぼれる光を表す独特の表現です。こうした言葉があることで、私たちはその風景に特別な意味を見出しやすくなるのだそうです。虹も同様で、ある国では7色、他の国では3色と認識されていて、言語によって世界の見え方が変わるのだという話がとても印象的でした。それほどの力があるものだから、ある種の暴力性もはらんでいて、言葉ってすごく取り扱い注意なものだなって思います。
一方、言葉に助けられることもあります。名前のない感情が溜まると、ノートや携帯のメモに書き出してみるんです。感情のおもむくまま書き連ねた、抽象的な詩みたいなものなんですけど。すると、自分の感情はこういうものだったんだなと可視化されて、その感情が自分と切り離されるというか……。言葉という形になって昇華できる気がするんです。」
前半は、「青春って、一体なに?」というテーマでした。八木さんは青春について、すごく充実していて楽しかったけれど、進路のことなど考えることも多く、情報量がありすぎて「真っ白な滝に打たれ続けている感じだった」とお話されていましたね。前回、この連載で村田沙耶香さんにインタビューしたのですが、その表現にとてもシンパシーを感じたそうですよ。
「村田さんは番組でも共感を伝えてくださいました。じつは私、村田さんの作品を以前から読ませていただいていて。村田さんの書かれた『信仰』も、のめり込むように読ませていただいていました。その村田さんが、私の表現を『わかります』と言ってくださって、すごく嬉しかったんですけど、おこがましいと思って番組ではうまく感謝を伝えられなくって……。私が思うことを『そう思っていいんだ』と認めてもらったような気持ちです。これからはもうちょっと自信をもって、思いを言葉にしていこうと思いました。」
後半のテーマは「〈大切な友だち〉を表す言葉」。八木さんには、今でも長電話をする昔からの友だちがいるそうですね。「あなたに何かあったら、筑前煮を持って走っていくね」という言葉がとても素敵でした。
「一度も同じクラスになったことがないのに、なんで仲良くなったんだろうね、といつも言い合っている地元の友だちがいて。しょっちゅう会えるわけじゃないんですけど、「元気にやってる?」「体調崩してない?」とお互い気にかけていて、何かあると長電話するんです。私は誰かに相談したり頼ったりするのが苦手なのですが、その子にならなんでも話せます。お互い、この先家庭を持っても、何かあったら飛んでいくからねって言い合っています」
どうして「筑前煮」だったんですか?
「その電話のとき、たまたま筑前煮を作っていて。好物なんです(笑)。じつは、その子と、この関係を名づけるならなんだろうね、って話し合ったことがあるんです。まさに今回のテーマと同じですよね」
わ!すてき。どんな言葉になったんですか。
「〈友達〉じゃ足りないよね、でも〈親友〉だとちょっと、こっ恥ずかしい……と言い合って、結局、〈友人〉で落ち着きました」
ずいぶん、シンプルな言葉に着地したんですね。でも、「友の人」と書いて「友人」と考えると、たしかに「友人」っていい言葉だなあ。
「そうなんです。〈友達〉だと、不特定多数の中の一人って感じがするんですけど、〈友人〉だと、その子だけを指す感じがして。考えてみれば、そうやって、お互いの関係を言葉に落とし込んで確認し合うっていうのも言語化のよい作用かもしれません」
俳優というお仕事柄、公の場での発言の機会も多いと思いますが、気を付けていることはありますか。
「大学で言葉の怖さやメディアの影響力を学んだためか、どうも言葉を怖がりすぎていて、回りくどい表現になってしまうのが目下の悩みです。このご時世を考えると、これを言ったらこっちがダメかな、でもあれを言ったらあっちがダメだし、と言葉を選びすぎて、結局何も言えなくなってしまって……。
でも、この番組でみなさんと語り合って、シンプルな言葉のほうが意外と相手に届いたりするんだな、と気づいたり、こういう表現をしてもわかってくれる人はわかってくれるんだ、と思えました。この「日々こと」に、〈言葉にする勇気〉をもらったように思います」
【番組情報】
「わたしの日々が、言葉になるまで」(Eテレ、毎週土曜20:45~21:14/再放送 Eテレ 毎週木曜14:35~15:04/配信 NHKプラス https://www.nhk.jp/p/ts/MK4VKM4JJY/plus/)。次回の放送は5月24日(土)20:45~。第5回~第7回のまとめを放送します。