
ISBN: 9784861245213
発売⽇: 2025/03/01
サイズ: 19×1.8cm/225p
「ウミガメ博物館」 [著]亀崎直樹
四方を海に囲まれた日本には、海岸線がとてつもなく長く存在する。そんな海岸線を生活の一拠点としているウミガメについて、砂浜に自生する植物からヒトとの関わりまで、30年以上にわたる豊富な経験や知見を元に幅広く紹介している。
都会のコンクリートジャングルで生活している人間たちには、とても遠く別世界に感じるかもしれない。しかし、本書は人間の活動が思いもよらぬところで野生生物や環境に影響を及ぼすことを教えてくれ、目先の問題に飛びつくのではなく、木を見て森を見ずにならない対応が重要であると警鐘を鳴らす。「自然から遠く離れたところで仕事をしている行政は、砂浜の生態系にいかに植物が重要かを理解しようともせず護岸工事をした結果、砂浜を台無しにしてきた」との指摘は重い。
砂浜があれば良いということでもない。自生する植物の多様性、波の具合さらに砂の状態まで、神の所業か⁈と思わせるほど見事に条件が合致した環境でこそウミガメは産卵できるのである。
アカウミガメが大型クジラ並みに長距離移動することにも驚かされる。日本で生まれた個体は米国西海岸付近まで行ったかと思うと産卵のために日本に戻る。自然や野生動物を知りたい、研究したい初めての人々にとって、本書は教科書的役割も担うだろう。
やはり、現場に出向くこと、情報共有する団体を作ること――本書では著者が作った日本ウミガメ協議会の調査成果が詳しく記される――は重要だ。専門家から発信された自然の「現状」を、市民の地道な調査で「市民博物学」に発展させ、行政が専門家や市民と共に取り組むことで、著者が「誇り」と述べる鹿児島県ウミガメ保護条例制定のような結果につながるのであろう。
それにしても、著者は本当にウミガメが好きなんだなあと本書からひしひしと伝わる。まさに、好きこそ物の上手なれである。
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かめざき・なおき 1956年生まれ。岡山理科大元教授。ウミガメの自然史を研究。日本ウミガメ協議会会長も務めた。