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今村翔吾さん×山崎怜奈さんのラジオ番組「言って聞かせて」 「DX格差」の松田雄馬さんと、AIと小説の未来を深掘り

左から山崎怜奈さん、松田雄馬さん、今村翔吾さん=松嶋愛撮影

入試問題にも採用される注目のAI研究

山崎怜奈さん(以下、山崎):本日はAI研究者の松田雄馬さんをお迎えし、今年6月に出版された『DX格差―AIに仕事を奪われないための5つのスキル』という本について、お話をたくさんうかがっていきます。

松田雄馬さん(以下、松田):どうぞよろしくお願いいたします。

山崎:松田さんはこれまでAIを中心に10冊の著書を出版されていて、全国の高校・大学の入試問題や国語の教科書に数多く採用されています。すごい! 「社会的信用」っていう感じがします。今村先生、ちなみに著作が教科書になったことは?

今村翔吾さん(以下、今村):教科書はないけど、入試はあるよ。どういう学校の入試に使われているんやろうなってググってしまった(笑)。

山崎:たしかに。あれってどうやって選ばれているんですか。

松田:本来、何かに転載される場合は事前に連絡があるのですが、入試問題は特殊で、事前に連絡すると問題が漏洩(ろうえい)する可能性があるじゃないですか。だから、連絡なく採用されても著作権に引っかからないんです。

山崎:なぜご自分の書いたものが採用されたと思いますか。

松田:AIやプログラミングの研究をしている人は他にもいっぱいいるんですよ。ただ、そのプログラミングの先にどういう社会が待っているのか、どうしたら人間が幸せになれるのかって、真剣に考えている人が他にあまりいないんです。

今村:入試を受けるような子どもたちにとって、未来の展望を見せるようなテーマっていうこともあるんじゃないかな。

「本能寺の変」って人間っぽい⁉

山崎:AIという分野をやりたいという人も増えていますか?

松田:ええ、授業や部活で取り組むなど関心の高まりは感じるのですが、だいたい「プログラミングやりましょう」止まりなんですよね。僕は20年以上AI研究をやっていますが、AIとは「アーティフィシャル・インテリジェンス」の略、つまり「人工的に人間の知能を実現する」ことなんです。そう捉えると、人間の脳って何なんだろうっていうのがわかっていないと研究には至らないんですよ。

今村:じつは脳科学の分野でもあるってことか。

松田:おっしゃるとおりです。

山崎:人間の脳って何なんですか。この時間に収まるぐらいで説明すると?

松田:人間の脳ってどれぐらいの細胞でできているかご存じですか。

山崎:何百万個?

今村:何千万個?

松田:もっとです。体の神経と脳の神経って全部つながっているんです。そう考えると、体の細胞全部が脳の細胞と言える。これは60兆と言われています。この60兆のばらばらの細胞がどういうわけか、一人の人間として動く。ある種のユートピアが自分の体で、それを動かすための機能が人間の脳というイメージです。

山崎:AIに興味を持ったきっかけは何だったんですか。

松田:大学生の頃にプログラミングに触れて、最初は連立方程式を自動的に解くプログラミングを作ってみたんです。式を入力するだけで一瞬で解けて、これがあれば自分で考える必要のない、夢のような世界になるんじゃないかと思ったのがきっかけでした。それで、いろんな研究室をのぞいてみたんですけど、何か違ったんです。人間って息遣いがあったり、お互いのあうんの呼吸を感じたりするのですが、研究室で見たものは「人間っぽさ」とは正反対だったんです。じゃあ「人間っぽさ」とは何なのかな、と考えはじめて、AI研究の道に足を踏み入れました。

今村:「人間っぽさ」の定義も難しいよね。

山崎:今村先生は人間をたっぷり描いていますけど、人間らしさってなんだと思います?

今村:「適度なエラー」やと思ってる。同じ公式を入れてもたまになんかずれるというのが人間なんかな。それで、ずれの連鎖が、「何かわからんけど泣けてきた」とかプラスの方にもいくことがある。

山崎:それこそ戦国時代の戦いを見ても、天候や地形、人手で言うと「どう考えてもこっちが勝つやろ」っていう時も負けたりすることもありますもんね。ヒューマンエラーが起こりうる。

今村:エラーと言っていいのかわからん現象もある。たとえば、本能寺の変。今までの(織田)信長やったら全力で逃げるとこやのに、なんでこの時だけ腹をくくったんやろって。今までの行動パターンと違うことをする部分をAIが出せれば人間っぽいってことになるのかも。

AI小説家が脅威ではない理由

山崎:『DX格差』はどんな本なのでしょうか。

松田:まず「DX」とは「デジタル・トランスフォーメーション」の略で、デジタル技術を使って変身しようという考えのこと。ビジネスパーソンとしての自分も変身するし、会社全体も変身して、自分がもっと活躍できたり、会社が儲かったりする生き方を目指しましょうねってことなんです。

山崎:でも、「AIに仕事を奪われる」ってよく言うじゃないですか。不安を抱いている人や企業は多いと思うのですが、今村先生はAIに〈脅かされてる感〉はありますか。

今村:僕らの(文芸の)業界はDXについてマイナスに捉えてる人が多いと思う。実際、作家の名前をかたってAIが偽造の本を作って売ったみたいなニュースもあって。でも僕は悪い面ばかりじゃないと思ってる。AIによって作家やライターの総量は減るやろうけど、その半面、手で書いた小説の価値が5倍、10倍に上がるんじゃないかな。

 だってさ、100円ショップでもお皿買えるのに、やっぱり人間国宝が作った何十万、何百万円のお皿が重宝されるやん。それと同じで「今村翔吾がイチから最後まで書きました」っていう証明書を作って、それをつければ普通に小説を売るより価値が上がる、こういう時代が来るんかなって気がしていますね。

山崎:AIが書くとやっぱりクオリティーは落ちるんですか。

今村:いや、星新一賞っていう小説のコンテストがあるんやけど、あれ、AI使用OKなんですよ。で、AIが作った小説が人間をなぎ倒して1次選考を突破してたから……。僕、小説で(プロ棋士とAIが戦う将棋の)電王戦みたいなやつやりたいねん。僕とAIでどっちがいいものを書けたかっていう。

山崎:それ、作詞で秋元康さんがやっていますよ。AI秋元康VS秋元康。松田さん、この本にはDXの未来も書いているわけですよね。どんな展望をお持ちですか。

松田:今の小説の話を例にするとわかりやすいかもしれません。僕は小説家の仕事を単純に生成AIに置き換えるのはナンセンスだと思っているんです。AIの重要な役割の一つは、ネット上の情報をぱっと集めてきて必要な情報に集約すること。だからこそ、それなりの小説が書けるのですが、あくまでも「それなり」になる。ネット上にない、データとしても与えていない新しい発想の小説は絶対にAIには書けないわけですから。

 それよりも、これから小説家になりたい小学生がいたとして、その子の書いたものに対して、過去の名作と比較してアドバイスし、その子の能力を引っ張りあげる、こういうことに使うのがいいと思います。

 AIを使うとき、大切なのは主体者が人間なのかAIなのかという話。あくまで人間が主役だということがわかっていると、じゃあ人間の夢を叶えるためにどうAIを使えばいいのかという視点になる。AIが主役ということはあり得ないですからね。

今村:僕は今、あるAIの企業さんと今村翔吾の書いたものをインタビューも含めて全部AIに覚えさせて、AI今村翔吾を作ろうとしているんですよ。そうすれば、「このシリーズのこの人物ってどこで出てきたやつやった?」って俺が俺に聞けるようになる。

山崎:それめっちゃいい! 私もやりたい。自分にあった出来事を全部覚えさせておいて、アンケートを書くときに「こういうシチュエーションでこういう気持ちになった時のことを教えて」みたいに自分に相談したい。

今村:自分だけのAIが一人ひとりにいる、っていう時代が来る気がしますね。

先人の「DX道」を物語で知る

松田:この本の特徴として、今社会に出て活躍している「DX人材」と言われている人たちのインタビューが入っているんです。最初はみんなAIについて何も知らないところから始まるわけです。それが何をきっかけにしてこの道に踏み入れようと思ったのか、どうやってスキルを身に着けていったのか、今どんなふうに活躍しているのか、その紆余曲折を物語として楽しんでもらいながら、自分がそのスキルを身に着けた先を想像してもらえたらいいなと思って。

今村:なるほど。インタビューを読めばDXの使用前・使用後がわかるってことやね。

松田:はい。自分の使用後をぜひ想像してみてほしいです。

今村:デジタル技術はこの先、どんな局面でも絶対に付き合っていかないといけないので、この本を読んどくとええね。

山崎:AIに対する偏見も取れるかもしれませんね。ところで、最後に余談なんですけれど、この本を書くのにどのくらいAIを使いましたか。

松田:あら(笑)。それ聞いちゃいます? 情報集めにはかなり役立ちました。もちろん、ファクトチェックはいちいち人間がしなきゃいけないんですけど。それをチェックした後で文章に起こすことにも使いましたが、AIに書かせた文章をそのまま載せられるかというと、やっぱり細部で矛盾があったり、重複があったり。(最終的に本として仕上げるために)かんなで削る作業は結局、人間の仕事かなと思います。

山崎:主体者は人間、ということですね。ありがとうございました。