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「記憶とツリーハウス」書評 解けない暗号 絡まりあう人生

評者: 石井美保 / 朝⽇新聞掲載:2026年10月03日
記憶とツリーハウス 著者:何 致和 出版社:小学館 ジャンル:文芸作品

ISBN: 9784093567527
発売⽇: 2026/08/05
サイズ: 13×18.8cm/392p

記憶とツリーハウス」 [著]何致和

 謎かけに満ちた本だ。
 主人公は三人の少年たち。語り手の「僕」、同級生の翊亞(イー・ヤー)と阿煌(アー・ホァン)。母子家庭の翊亞は、ピアニストになるべく母親に厳しくしつけられている。わんぱくな阿煌は、活動家の父親の影響を受けて育った。そして「僕」は、飲んだくれの父親と愚痴っぽい母親の下で路地裏に暮らす。
 それぞれの鬱屈(うっくつ)と情熱を抱えて生きる三人の友情は、少年時代から三十路(みそじ)半ばの現在まで、時おり途切れかけながらも続いてきた。そんな過去と現在を行き来する「僕」の視点で物語は進む。
 キーワードのひとつは「暗号」だ。大学教員の職を失い、いまは主夫をしている「僕」の専門は暗号学。学問としての暗号学は論理的だけれど、この世は読み解けない謎や暗号に満ちている。因果の網は広すぎて、その全貌(ぜんぼう)を理解することはできない。自分の意志や選択さえ、振り返れば、本当に自分のものだったのか疑わしくなる。人はいつも、気づきもしない力によって動かされているのかも。ひょっとしたら、死者によっても?
 そんな不可思議な因果の中で、三人の少年は冒険に乗りだす。樹(き)の上にツリーハウスを作り、宝物を隠し、川を遡(さかのぼ)って上流を目指す。なんと、オランウータンを連れて!
 過去も現在も、人生に正解なんてなく、世界の調律はずれていく。自由にみえて、自由じゃない。捕まえたと思ったものは、時の流れとともに逃げ去っていく。そんな中で、自分と誰かの人生がいっとき絡まりあうことは、じつは奇跡的なことなんじゃないか。
 ツリーハウスの上から下界を見晴らし、出口を探していた僕ら。不自由で、未熟で、外の世界に焦がれて。その先にいまがあるはずなのに、あの頃の方が自由だったような気がするのは、それも幻想なんだろうか。
 人生の暗号は永遠に解けない。記憶の中で僕らは、川沿いをずっと歩き続ける。ツリーハウスから見た未来に向かって。
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か・ちわ/Ho Chih-Ho 1967年台北生まれ。作家、英米文学翻訳者、国立台北芸術大副教授。邦訳作品に『地下鉄駅』。
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三浦裕子訳