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「こんなにも多くの人が、マリアナ」書評 女性たちを絡め取る無情な運命

評者: 藤井光 / 朝⽇新聞掲載:2026年10月03日
こんなにも多くの人が、マリアナ 著者:マリア・ジュディッテ・デ・カルヴァーリョ 出版社:集英社 ジャンル:文芸作品

ISBN: 9784087735383
発売⽇: 2026/07/24
サイズ: 13.1×18.8cm/288p

「こんなにも多くの人が、マリアナ」 [著]マリア・ジュディッテ・カルヴァーリョ

 「私の人生はもう通り過ぎていったわ」と、本書の登場人物のひとりは言う。人生に置き去りにされたと感じながら生きる人々には、いったいどんな物語があるのか。
 冒頭の表題作で、主人公の女性マリアナは、ひっそりと死期を迎えようとするなか、自分の人生をつづる。リスボンで大学を卒業して恋人と暮らし始め、ふたりでパリに移り、順調に見えた生活はしかし、一瞬で歯車が狂ってしまう。人生で夢見たことが手に入る前に自分から奪われていく、その残酷な現実を前にして、彼女に何ができるのか。みずからの無力と孤独をかみしめるマリアナの言葉は、亡霊の声のようにも響く。
 その静かな諦念(ていねん)に引き込まれたあと、挟み込まれた短い物語の数々は、簡素で鋭利な語り口で、表題作の主題を改めて突きつける。女性たちは、性暴力や家庭内暴力、世間体による制約などのジェンダーの圧力にさらされ、人生の選択肢を切り詰められてしまう。その圧力が「運命」として、人生の作者のように振る舞ってしまう社会において、個々の女性たちにとっての自由とは何なのか。男性の付属品であることを求められる彼女たちの存在には、どんな意味があるのだろう。
 そうした問いが刻まれたところで、本書を締めくくる「空(から)の戸棚」は、サスペンスを巧みに構築する語りによって、ある母と娘の人生の転機をじっくりと追っていく。清貧をよしとする夫に先立たれたドラ・ロザリオは、骨董(こっとう)家具店での目立たない仕事を続け、娘のリザと二人で暮らしている。そこにある日、エルネストという客が来店したことで、彼女の前に別の人生の可能性が現れるのだが……。
 主人公たちが知るべきだった真実は、手遅れになってから明かされる。そのときにはすでに、無情な運命の糸が、彼女たちを絡め取っている。その流転をたどる筆致は、優雅であるがゆえに、いっそう心をえぐる。
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Maria Judite de Carvalho 1921年、ポルトガル生まれ。編集者の傍ら小説を執筆。同名の短編集は59年刊。98年死去。
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木下眞穂訳