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レイモンド・ブリッグズ作・絵「さむがりやのサンタ」 子どもを解放してくれる本音

 今、世界各地でグラフィックノベルが熱い視線を集めている。

 グラフィックノベルというのは、ひと言で言えばマンガ。アメリカやイギリスの主な児童文学賞でも、今や常連となりつつある。マンガといえば、文学的価値の低い娯楽にすぎないと思われていたのはもはや昔のこと。なにしろルーブル美術館にも「9番目の芸術」として迎え入れられたのだから。

 本書は、その先駆けと言えるかもしれない。サンタさんと言えば、クリスマスイブに世界中の子供たちにプレゼントを配ってくれる優しいおじいさん。でも、本書のサンタはちょっと――いや、だいぶ違う。

 なによりまず寒さが苦手なのだ。サンタクロースなのに! 煙突に入れば、すすだらけになったとこぼし、用意されたおやつに「ふん なんだ ジュースかい」と文句を言い、人のプレゼントにケチをつける。しかも最後の決めぜりふは、しかめっ面で「ま、おまえさんもたのしいクリスマスをむかえるこったね」。

 サンタ像を打ち砕かれて、子供の私はショックを受けた? いえいえ、その逆で笑い転げた。立派なはずのサンタさんがこんなふうにぼやくだなんて。大人ってこんな本音を隠してるんだ! このちょっとした逆転は、普段は評価される側にいる子供を一時的に解放してくれたのだ。

 さて、実は私が本書に初めて出会ったのは、お土産でもらったドイツ語バージョンだった。私はもちろん、家族の誰もドイツ語なんて読めない。だから、絵を隅の隅まで眺め、コマを追い、勝手に物語を想像していた。それでも面白くてしょうがなかったのは、本書が「マンガ」だったからだろう。数年後、日本語版を入手して、絵と文のギャップに驚き、二度楽しんだのは言うまでもない。

 そんな経緯もあって、本書では、絵もまた多くを語っていることを、私はよく知っている。そうそう、続編の『サンタのなつやすみ』につながるヒントもあるので、ぜひ探してみてほしい。(翻訳家)

     ◇

 すがはらひろくに訳、福音館書店・1540円。作者(1934~2022)はイギリスの絵本作家。本作の原書は73年、日本では74年に刊行。せりふのない絵本「スノーマン」も世界で読み継がれている。=朝日新聞2026年10月3日掲載