以前から、私には「女の子が階段を上るように一歩ずつ成長するのに対し、男の子はある日突然、飛躍的に変わる」との持論があった。それは自分の経験に基づくものと思っていたけれど、往年の名作『大きい1年生と小さな2年生』をひさびさに再読し、ひょっとしてこの本の影響もあったのでは……とハッとした。
小学生の日常を丹念に綴(つづ)ったこの童話は、派手な事件も逆転劇もないのに、読者の胸に深く深くもぐりこむ。
登場するのは、体は大きいのに心は幼くて頼りない小1のまさやと、体は小さくても勝ち気な小2のあきよだ。自らの外見と内面にちぐはぐさを抱えた二人の対比を基調に物語は進むが、前半でとりわけ目立つのは、まさやのへたれっぷりである。暗い道が怖いと泣く。上級生に脅されて泣く。お腹(なか)が空(す)いても泣く。とにかくずっと泣いている。
そんな泣き虫王子が、ある一日を境に一変する。本書の静かな凄(すご)みは、その急激な変化に誰しもをうなずかせる説得力がある点だ。
彼を変えるのは冒険である。ある目的を胸に、ある場所をめざして、まさやは一人で歩きだす。その道中の描写は鮮やかにして細かい。まさやが進む一歩一歩。移りゆく風景。見知らぬ人々との出会い。分かれ道。すべてを自分で選択せざるをえない状況下で、困難を一つ乗りこえるたびに、まさやの中で何かが変わっていく。読者の私たちはそれをハラハラと見守りながら、同時に、彼の成長の目撃者となるのである。
まさやのビフォア・アフターはあきよにも影響する。背の低さにコンプレックスを持っていた彼女は、ある気づきをきっかけに、自分を大きく見せようとしなくなる。
これらがわずか2カ月のあいだに起こった出来事であるのは、別段、驚く話でもないだろう。子どもの頃は一日一日がとても長かった。「もう今年も三分の二が過ぎてしまった!」と啞然(あぜん)としている大人の皆さんも、時にはひと休みして子どもの本を手に取り、あの緩やかな時間の流れを懐かしんでほしい。
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偕成社文庫・880円。単行本は70年刊行。著者(1927~2014)は愛媛県生まれ。『おしいれのぼうけん』『宿題ひきうけ株式会社』『モグラ原っぱのなかまたち』など。児童文学評論でも活躍。=朝日新聞2026年9月5日掲載