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逢坂冬馬さん連作短編集「その犬をください」 戦場遠ざかっても 戦争を描く

逢坂冬馬さん

 逢坂冬馬さんの新作は、近代日本と戦争を犬を通して見つめた「その犬をください」(KADOKAWA)だ。初めての連作短編集。新しい挑戦を続けながらも、物語にはやはり戦争が映し出される。

 小説を書きたいと思った時、根本にあったのは、この世界を理解したいという欲求だった。世界の主体って何なのか。考えるとそこには間違いなく戦争がある。戦争を繰り返す人間の営みというものを理解したい。なぜ、回避したいはずの戦争に向けて突き進んでしまうのか、関心をもってきた。

 アマチュア時代から、戦争を書くことが多かった。2021年に、独ソ戦に駆り出された女性狙撃手を描く「同志少女よ、敵を撃て」で、アガサ・クリスティー賞を受賞してデビュー。「歌われなかった海賊へ」の舞台は、ナチス体制下のドイツ。3作目の「ブレイクショットの軌跡」では、現代日本を描きつつ、その遠景には戦争があった。

 続く今作は、まだ書いていなかった日本の歴史を、一つの題材を借りて書いてみようと考えた。近代との出合いが生まれた明治初期から現代まで、時代を下りながら、四つの物語で犬と人間の関わりを描いた。

 2編目の「忠犬誕生」は、日本社会の成り立ちを反映した出来事の一つと考えた。昭和7年、渋谷駅に来る「人待ち顔」の老犬の話が新聞に載る。主人を待つ日本犬「ハチ公」の「忠義」の美談は、日本が国際社会で孤立を深める中で、関わる人たちの想像を超えて広がった。

 言葉を持たないハチに人間の思惑が投影され、語られていく。「整理された物語に突き進もうとすると、その文脈から失われたものは見えなくなっていく」。フィクションと現実の間は明確に分かれているわけではなく、「そこに物語性の危うさがある」。動物との親和性の高さも、書いてみて気が付いたという。

 最後の一編で舞台は、令和になる。引退警察犬を飼う高校生の主人公は、「戦争」という言葉が頭から離れず、押しつぶされるような恐怖を感じている。「今日本は戦争していないが、一歩でも動くと戦争のことが見えてしまう。主人公は、この圧倒的な落差をどう捉えていいのかわからない」

 日本と戦争の関係が、時代ごとに浮かび上がる。「近代日本は、絶え間ない向上意識と向学心の表れでありながら、対外拡張主義と戦争の繰り返しでもあった。そこから、国が直接的に戦争に参加しているわけではないところまではたどり着けた」。その軌跡にまで、読者が少しでも思いを致してくれるなら小説家として大変ありがたい、と言う。

 戦争との接点の書き方は変化していっている。実は今作では初めて、作中で銃を放つ描写をしていないという。「戦場から遠ざかってもなお、戦争を描くということに最近の関心はあったのかもしれない」

 一方で、「また戦争そのものを書くかもしれないし、戦争を書くことそのものから離れるということが果たしてあり得るのか、実は今自分の中で気になっている。戦争要素がない小説を書けるのかなって」。

 戦争を一切排除して自分の小説が成り立ち得るのかは目下のテーマだが、必ずしもそれをやらなければいけないわけでもない。「めざすものって先にない方が、自分自身愉快なんじゃないか」。作家像は書き連ねたものを振り返ったときに分かるものと、新たな小説にまた挑む。(堀越理菜)=朝日新聞2026年10月7日掲載