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「手芸とエンパワメント」書評 やわらかな現状への異議申し立て

評者: 青山七恵 / 朝⽇新聞掲載:2026年10月10日
手芸とエンパワメント: 私たちが紡ぐもの 著者:山崎明子 出版社:晶文社 ジャンル:女性学

ISBN: 9784794980649
発売⽇: 2026/07/24
サイズ: 13×19cm/232p

「手芸とエンパワメント」 [著]山崎明子

 身の回りにハンドメイドの品がたくさんある。ティッシュケース、鍵入れ、飴(あめ)入れ、ミニバッグ等々。自作のものもあるけれど、ほとんどはいただきもので、作ってくれたのはみな女性だった。
 手芸は女性のもの、というイメージが未(いま)だに根強いのはなぜなんだろう。手芸とジェンダーのややこしい関わりを、本書は優しく解きほぐしてくれる。家父長制下において、手芸は女性たちを望ましい姿に仕立てるための装置として機能していた。針と糸を持つ女性の身体は、皆の癒(いや)しであり家庭安泰の証(あかし)。一方で、女性たちが何かを作ることで自分と周囲を元気づけ、技術を継承してきた歴史は否定できない。生産性こそ善とされるマッチョな世では、役に立たないものを楽しく好きなように作ること自体が現状への異議申し立てになると本書は提言する。社会を塞ぐ硬直した価値観も、針の先でつっつき続けていれば、いずれ穴が開くかもしれないのだ。
 読み終えて、久々にかぎ針編みを再開した。不器用に動く指先に、かつてこうして私にものを作ってくれた彼女たち全員の力を感じている。