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「死の都市」書評 暴力と支配を土台に築いた社会

評者: 中澤達哉 / 朝⽇新聞掲載:2026年10月17日
死の都市 著者:マイク・デイヴィス 出版社:青土社 ジャンル:ノンフィクション

ISBN: 9784791777907
発売⽇: 2026/05/26
サイズ: 13×19cm/650p

「死の都市」 [著]マイク・デイヴィス

 本書は、生態系、文明、政治と歴史、軍事実験都市など、章ごとに米国内の衝撃的なトピックを通じて現代文明の危うさと脆(もろ)さを暴こうとする一冊。特に第一章は「白人の存在はただの悪夢だった……」という表題からして強烈。西部開拓の華々しい歴史像は相対化されて久しい。しかし、本書が告発したのは、歴史の勝者が「文明化」と呼んだものの正体、つまり、国家による先住民族の土地の略奪、のちの資源搾取や軍事実験を通じた大地の容赦なき破壊であった。著者は、膨大な事実をもとに、国家の土台がいかに凄惨(せいさん)な構造的暴力と人種支配のうえに築かれてきたかを暴き出す。
 本書は単に過去の告発にとどまらない。富と繁栄の裏で他者を徹底的に犠牲にするシステムは、形を変えて現代社会にも生き永らえているという。その最たる例が、マイノリティの居住区周辺に環境汚染が集中する「環境的人種差別」。現在の世界的な気候変動によってこれは増幅され、被害は不条理なほどマイノリティの側に集中している。
 このような構造的暴力を前に、著者は安易な楽観論や「いつか良くなる」という甘い希望を徹底して拒絶する。だが、容赦なき問題列挙の目的は私たちを絶望させることではない。目を背けたくなる現実を極限まで直視させることで、読者に認識の深化を迫り、「この構造を放置し続けるのか」と、私たちに厳しく問い詰めてくるのだ。
 「死の都市」とは、かつて一方的に虐げられた人々の悲鳴であり、利己的な繁栄にしがみつく現代文明が向かう未来の姿でもある。この負の歴史と直結する現在を直視しなければならない。希望とは、絶望的な現実から目を逸(そ)らさず、そこから変革へと踏み出す冷徹な意志のなかにこそ宿るものなのだろう。今なお続く支配の構造を赤裸々に解体し痛烈な警告を発することを通じて、現代人に変化への一歩を促す一冊である。
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Mike Davis 1946年生まれ。カリフォルニア大アーバイン校教授などを歴任。2022年死去。著書『感染爆発』など。
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日比野啓訳