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「活字の種をつくった人々」書評 今も生き続ける超絶技巧の精華

評者: 古田徹也 / 朝⽇新聞掲載:2026年10月24日
活字の種をつくった人々 著者:雪朱里 出版社:水鈴社 ジャンル:アート・建築・デザイン

ISBN: 9784910576091
発売⽇: 2026/08/04
サイズ: 14.8×21cm/240p

「活字の種をつくった人々」 [著]雪朱里

 いまあなたが読んでいるこの文章のこの文字は、なぜこういうかたちをしているのだろうか。その理由は本書を読めばわかる。それは活版印刷技術の名残であり、継承にほかならない。
 活版印刷に用いる活字は、大元の型となる「種字(たねじ)」からつくられる。機械式の彫刻機が登場するまで、種字は職人たちの超絶技巧によって手彫りされていた。彼らは、わずか2ミリ角の素材にも複雑な文字を美しく刻み込んでいたのである。
 いや、彼らを職人と呼ぶのは適当ではないかもしれない。種字の彫り手として名を知られる人々は、書体のデザイン自体もみずから手掛けていた。つまり「種字彫刻師は、書体設計のすぐれた感覚と高度な彫刻技術をあわせ持つ、ごく限られた才能の持ち主にしかできない仕事だった」。
 本書の中心を成すのは、名うての種字彫刻師たちの仕事とその系譜を描き出す列伝である。これがとても面白い。明治初期に活版印刷技術が本格的に導入されてから、木工や金工などの腕をもつ人々が種字づくりに参入し、その仕事はさらに弟子たちに受け継がれた。しかし、時代とともに彼らの活躍の場は変わり、あるいは失われていった。それでも、いま私たちが目にし、利用している書体の多く――この新聞の書体や、私も好きな精興社書体など――は、彼らの創意と努力の賜物(たまもの)だ。活版印刷は廃れたが、その精華は現在も生き続けているのである。
 ほかにも本書では、そもそも活字とは何か、種字はどう彫られ、そこから活字がどう大量生産されるのかといった仕組みが、カラーの写真やイラスト付きでわかりやすく説明されている。種字の精巧さと風合いを、ときに原寸大で表す高精細の写真も豊富だ。
 表紙から索引まで神経が行き届いた、これほど美しく、そして温かい本は珍しい。ずっと手もとに置いておきたい、活字という文化遺産の決定的な記念碑である。
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ゆき・あかり 1971年生まれ。著述家。専門誌編集長を経てフリーランス。著書に『活字地金彫刻師 清水金之助』など。