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「絶滅種たちの国」書評 戦争語る言葉自体をめぐる問い

評者: 藤井光 / 朝⽇新聞掲載:2026年10月24日
絶滅種たちの国 著者:マリア・レヴァ 出版社:河出書房新社 ジャンル:文学・評論

ISBN: 9784309209524
発売⽇: 2026/08/27
サイズ: 14.1×19.8cm/472p

「絶滅種たちの国」 [著]マリア・レヴァ

 生態系での役割を失い、絶滅寸前となったカタツムリの保全活動に取り組むウクライナ人女性イェヴァ。活動資金の足しになればと、結婚仲介業者が外国人男性向けにウクライナ人女性との「デート」を演出するツアーに彼女は参加している。
 そこに、同じくツアーに参加しているナスチャという女性が、とある計画を持ちかける。外国人男性を大量に誘拐することで、このビジネスを崩壊に追いやりたい、というのだ。ツアーで通訳を務めるナスチャの姉ソルも加わって、女性たち3人は動き始める。だが、それはまさに、ロシア軍によるウクライナへの全面侵略が始まるタイミングだった。
 移動範囲が極めて狭いカタツムリと、人の欲望のグローバルなネットワーク。そのふたつが皮肉たっぷりにつながったところに、戦争が入り込み、物語はどう転んでいくのか。
 さらに、ウクライナ出身で国外に住む作家である「わたし」も、小説中に登場してくる。ヘルソンがロシア軍に占領されても避難しない祖父を、どうやったら救い出せるのか。悩む「わたし」の意を汲(く)むようにして、イェヴァとナスチャとソルの3人は、幻のカタツムリが目撃されたヘルソンに向かう……。
 「爆弾を落とされないと気にかけてもらえない国」というものが、確かにある。そして、爆弾を落とされても、ウクライナに視線を向ける者は、それぞれが見たいものをそこに投影する。ウクライナ出身の作家に、戦時のユーモアの紹介ではなく、戦争の悲劇を書かせたがる新聞。解放されたウクライナ人という構図を演出しようとするロシア軍。
 虚構と現実が入り乱れる構成により、小説は戦争を語る言葉そのものをめぐる問いを、外部の者に突きつける。戦争を内側で経験する者はいかにして語りうるのか、書くことにはどのような役割があるのか、と。
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Maria Reva ウクライナ生まれ、カナダ育ちの作家。2020年デビュー。原書は2025年ブッカー賞のロングリストに入った。
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山北めぐみ訳