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「ケアとは何か」 わずかなサインからニーズを探る

 ケアに関わる人々の実践から、現象学を基盤とする筆者がケアとは何かを掘り下げた一冊。同書の研究対象は看護・福祉の領域だが、筆者の眼差(まなざ)しから、捉えがたいケアの核心をコンパクトに理解することができる。

 当事者の小さなニーズの手がかりを見いだしつつ、その人の視点から必要なことを「いま・ここ」で共に生み出していくことがケアの実践なのだろう。

 認知機能が低下し、身体機能がないとされる人に対しても、よく意識を向けて向き合ってみると、その人のニーズの手がかりがいくつも見つかるなど、興味深いエピソードが次々と出てくる。終末期にある人が発するわずかなSOSのサインは、ケアする者がそれを受け止めるからこそ初めて意味を持ち、それを発する者の能力になる。

 私は企業変革を研究しているが、「改革疲れ」という言葉を少なからず目にする。この背後には、ケアの不足がないだろうか。ニーズのないところでの改革は、改革疲れを生み、組織を蝕(むしば)んでいく。この悪循環から回復する上では、組織成員のニーズを丁寧に探り、育てていくことに打開の道があるのではないかと思う。=朝日新聞2021年8月21日掲載