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平凡社ライブラリー創刊30周年! 盛りだくさんの6月刊の3冊を紹介

記事:平凡社

平凡社ライブラリー6月刊の3冊
平凡社ライブラリー6月刊の3冊

火器は誰にどう使われ決定的な兵器となったのか――『火器の誕生とヨーロッパの戦争』

 古来、人類は戦いを繰り返してきました。そして戦いの裏には、いつも発明と技術の進歩、その技術を使いこなす人々がいました。
兵器の歴史においては、火薬の発明が大きな転換期となり、その後すぐに、鉄砲や大砲が誕生して、それまでの騎馬戦から戦争の様相を一変させた、と考えられがちです。

 けれども実際は、その発展は迅速なものでも直線的なものでもありませんでした。火薬の誕生から実際に火器が決定的な兵器となるまでには、約二〇〇年の年月がかかったといいます。

表紙カバーにも使われているこの図は「騎兵のピストルの使い方」の解説(本書394ページより)
表紙カバーにも使われているこの図は「騎兵のピストルの使い方」の解説(本書394ページより)

 本書では、その過程が、政治・社会・宗教など当時の状況を鑑みつつ、技術的視点から丹念に辿られます。

 火薬および大砲の知識は中国で生まれ、一三世紀に中国からヨーロッパ、イスラム圏に伝えられたとされますが、一三世紀はじめ、火器は弾丸よりも矢を射つのに使われており、大砲もすぐに広まったわけではありませんでした。

 その背景には、火薬の原料の硝石が高価で十分に使えなかったこと、鉄砲のデザインが未発達で射程が短く狙いも定まらなかったこと、また、装填に手数がかかり発射に時間がかかったことなどがありました。また、兵器が変われば、それを使う人も変わりますが、使い方を誰がどう学ぶのか、兵器だけでなく、兵士に支払われるお金を誰が払うのかといった問題もあります。そうしたことは、政治や社会の影響を大きく受け、大きな歴史の流れの変化と直結していました。

 一つの発明が決定的な兵器となるまでに、どれほどの労力や費用、そして犠牲を要したことか――。

 火器が発明された当時、セルバンテスの小説のなかで、ドン・キホーテは「悪魔的な発明」と非難しましたが、やがてそうした声は聞かれなくなったといいます。

 本書を読むと、火器の発達は、それを欲しい必要とした人がいたからこそ、また繰り返し戦争が行われたからこそもたらされたということがよくわかります。

 戦争がますます身近に感じられる今、知っておきたい軍事史の一面。

 西洋の悪魔に蝙蝠の翼が生えたのはいつか?――『幻想の中世――ゴシック美術における古代と異国趣味』

 西洋における「悪魔」と聞いて、皆さんはどんな姿を思い浮かべるでしょうか。頭にはえた角、鉤爪、大きな口などいろいろありますが、一番に思い浮かぶのは黒い大きな翼ではないでしょうか。でもこの大きな翼、最初から生えていたわけではありませんでした。黒い蝙蝠のような翼が悪魔のイメージとして定着するのは一三世紀後半。それ以来、悪魔は切り立った崖を住処とし、洞窟の中を滑翔すると考えられるようになります。

 では蝙蝠のような翼のイメージはどこから来たのか。

 バルトルシャイティスによると、この時期はちょうどモンゴル帝国の元が誕生し、西方に勢力を拡大した時期でもありました。そう、蝙蝠の羽を持つ異形のイメージは、反キリストたる東方の元、地獄(タルタロス)を想起させるタタール人の拡大とともに西洋に流れ込んできたのです。

 蝙蝠の翼手は、龍の表象にも浸透し、グリフォン、バシリスク、セイレン、ケンタウロスなどの表象にまで影響を及ぼします。

「蝙蝠の翼手」を持つ表象の図像(本書346‐347ページより)
「蝙蝠の翼手」を持つ表象の図像(本書346‐347ページより)

 本書では、このように、中国をはじめとする東アジアだけでなく、ヘレニズム的古代、イスラームのイメージが異国趣味と混じり合って、驚異に満ちた奇怪な西洋中世のイメージ群が形作られてゆく様が、膨大な図像や文献により跡づけられます。

 動植物文、鬼神、器怪、死の舞踊、マンダラ──イメージの絶えざる越境と異種交配を描いた東西交渉の図像博物誌。ここで明らかにされたイメージのダイナミックな交流は、二十一世紀の現在、インターネットを通じて、アニメやゲームなど様々なジャンルでさらに拡大し続けているのかもしれません。

 一九九八年に二分冊で出されたものを、一八〇余点の図版はそのままに、一冊にした『新版 幻想の中世』。ぜひお手に取ってご覧ください。

平凡社の創業出版! 大正時代のベストセラー――『ポケット顧問 や、此は便利だ』

 最後に、平凡社ライブラリー30周年の目玉企画として刊行された一冊をご紹介します。それがこの『ポケット顧問 や、此は便利だ』(以下、『や便(やべん)』と略します)。

 本書は大正三年に刊行された実用用語集です。全国で人気を博したものの、刊行から間もなく出版元が倒産。編集に携わっていた下中彌三郎は自らの手で刊行し直すことにしました。刊行にあたり下中がつくった出版社が「平凡社」。そう、『や便』は平凡社の記念すべき最初の一冊なのです!

大正時代がよみがえってくるような言葉が並びます(本書75ページより)
大正時代がよみがえってくるような言葉が並びます(本書75ページより)

 刊行当時はベストセラーで二十回以上も増刷を重ねた『や便』ですが、世間から姿を消し数十年。今では平凡社の社員がひっそりと社内で回し読みするばかりの、容易には手に入らない「幻の一冊」となっていました。

 平凡社ライブラリーの創刊30周年を迎えるにあたり、「平凡社ならではの1冊をラインナップに加えよう!」ということで刊行されたのが本書です。

 その内容は、当時の新聞をにぎわせた流行語、外来語、新語から、「間違えやすい字」「熟語成句便覧」と多岐にわたります。なかでも読み応えがあるのが「新聞語解説」。たとえば「普通選挙」の項には「然るに我が国では、まだ、頗る窮屈な制限選挙制を採って居る」、「言論の自由」の項には「我が憲法には、言論の自由を許すとの条文はあるが、事実言論の自由は許されていないかも知れぬ」など、当時の世相を思わせる説明がされています。一方で「サンタ・クロース:児童を愛護する不可思議なお爺さん」「ミルク・ホール:客に乳をのませる家」といったユーモラスな解説が見つかるのも面白いところ。

 大正当時の風潮に思いを馳せるもよし、くすっと笑える「言葉の掘り出し物」を探してみるのもよし。手に取る人によって楽しみ方が何通りにもなる他にはない本です!

平凡社ライブラリーのオリジナルグッズが登場!

平凡社ライブラリー30周年記念Tシャツ
平凡社ライブラリー30周年記念Tシャツ

 平凡社ライブラリー30周年というアニバーサリーイヤーの幕開けとして、とっておきのオリジナルグッズを用意しました。

 平凡社ライブラリーのロゴをあしらったオリジナルTシャツです。平凡社ライブラリーのマークを使用したロゴTは、全12パターン×8色からお好きなデザインを選んでお買い求めいただけます。

 以下リンク先のウェブショップ、オンデマンドプリント T シャツモール〈pTa . shop〉に出店中です!

〈pTa . shop 平凡社〉
https://p-t-a.shop/collections/heibonsha

 ぜひこの機会に「平凡社ライブラリー」に全身染まっていただければ幸いです。

 これからも、平凡社ライブラリーでは読者の皆さまに楽しんでいただける本を刊行してまいります。末永くよろしくお願いいたします。

(文=平凡社ライブラリー編集部)

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