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細川貂々×青山ゆみこ「発達障害と生きてきたわたし」(前編)

記事:平凡社

『凸凹あるかな? わたし、発達障害と生きてきました』を手にする細川貂々さん(右)と青山ゆみこさん(左)
『凸凹あるかな? わたし、発達障害と生きてきました』を手にする細川貂々さん(右)と青山ゆみこさん(左)

そもそも発達障害ってなんだろう?

青山ゆみこ:今日は発達障害をテーマにお話しするんですが、発達障害をご存じの方はどれぐらいいらっしゃるんでしょう?(2/3以上が手を挙げる) 

 ああ、ほとんどの方がご存じですね。それでは、ご自身が当事者である、またはご家族にいらっしゃるという方は……?(約1/3が手を挙げる)

細川貂々:仲間がこんなにいる。うれしいです(笑)。

青山:私は貂々さんが発達障害の当事者であるということを知っていてお付き合いしているんですが、たまに「これは貂々さんの性格なのかな? それとも特性(発達の特徴)なのかな?」と実はわからないときがあるんです。特性について、最初にみなさんと共有できればと思うんですが。

細川:発達障害は、精神科の先生によって呼び方が違って、「非定型発達」「凸凹(でこぼこ)」といったりもします。(ボードの絵を指しながら)社会生活を営むのが難しいのは山の上の濃いところにいる人で、他の人はグレーゾーンのところにいます。私もグレーゾーンです。

 世の中のほとんどの人は、定型発達にあてはまります。発達障害は少数派……と言われているんですが、でもいっぱいいるという。

イラストで発達障害について説明する細川貂々さん
イラストで発達障害について説明する細川貂々さん

細川:どうして発達障害になるのか、というのは実はわかってないみたいなんです。ただ、発達障害の人は脳の神経のネットワークが働きすぎちゃうところがあったり、逆に全然働いていないところがあったりする。定型の人はバランスよくネットワークが繋がっているようなイメージです。

 発達障害は主に三つに分かれていて、自閉症スペクトラム障害(ASD)、注意欠如多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)があります。自閉症スペクトラム障害は、昔はアスペルガー症候群と呼ばれていました。

青山:貂々さんは、ASDとADHD、LDの3つの特性があるんですよね? 発達障害とひとことで言っても、一つだったり、複数が混合することもあるんですね。

細川:はい、私は全部あります。ただ、今はASDの特性が強く出てると感じているんですが、子どもの頃はADHDが強かったなって思います。多動でじっとしていなくって何回も死にかかってて。救急車は何度も乗りました。

青山:ご著書にも描かれてましたよね。鉄の棒がお腹に刺さったりとか。

細川:他にも二段ベッドから飛び降りて骨折したり。実家が自動車整備工場で、オイルの缶があちこちにあったんですが、転んで缶のフチが目にささって失明しかかったこともありました。いちばん覚えてるのは、飴を口に入れてふざけてたら喉につまって呼吸ができなくなったこと。「私はこれで死ぬんだ…」と、窒息する感覚が脳に記憶されています。父親が気づいて逆さに振ってくれて、飴が胃の中に落ちたので助かったんですが。  

青山:親御さんも心配だし大変ですよね(笑)。でも、当時は発達障害というものが知られていなかったから、大人には理由がわからず「そういうことをしちゃいけません」としか言えませんよね。

子どものころの貂々さん(『凸凹あるかな? わたし、発達障害と生きてきました』より)
子どものころの貂々さん(『凸凹あるかな? わたし、発達障害と生きてきました』より)

細川:「バカな子」っていう扱いでしたね。小学生の中学年までは衝動的なところがありました。そういえば、ADHDの多動性は10歳ぐらいでおさまることが多いというのを聞いたことがあります。

青山:いまの貂々さんはASDの特性が強いんですね。

細川:はい。だから人前で話すのがとても苦手で、家にいて外に出たくない。ほんとうはこのイベントも早く終わらせたいんです(笑)。

青山:でも貂々さんのような人が外に出て発言してくれるおかげで、私たちにも発達障害がどんなものか理解できるので、ありがたいです(笑)。

細川:がんばります(笑)。

ASDの貂々さんとADHDっぽい青山さん

細川:そういえば、三つの特徴を説明するのを忘れていました。ASDはコミュニケーションの障害があると言われています。人の気持ちがわからなくて、空気を読めなくて、自分のペースやルールを大事にします。感覚過敏も目立ちます。陰キャラです。

 ADHDは注意が散って集中できないという特性がある一方で、好きなものにはものすごく集中します。思いつきで行動してじっとしていられません。頭の中に次々と新しい情報が入ってきて、すぐ忘れます。陽キャラです。

 LDは(文字を認識できなくて)読み書きがうまくできなかったり計算ができなかったりします。

青山:これまで私は自分を発達障害の当事者の側に置いたことはなかったんですが、いまのお話を聞いたり貂々さんの本を読んだりして、実は「ADHDにかなり近いな」って思ったんですよ。小学生のときは宿題を1回もやったことがなくって。

細川:えっ!?

青山:宿題って実はやらずに済むんですよ。めちゃくちゃ怒られるだけで(笑)。やらないと先生は怒るけど、それ以上何もできないから放っとくしかなくなって、結局やらずに済むという。忘れ物も多くて、音楽の時間に笛を持ってこなくて怒られて、自分も笛がないから困るんだけど、音楽の時間が終わってしまえば特に問題がない。朝起きられず遅刻も多い。先生や親は「大人になったら困るよ」と口酸っぱく言いました。実際に社会人になってから、なんと入社2日目で遅刻して、「もう来なくていい」と怒られたんですけど、とにかく謝って。謝ればおおむね何とかなったんです(笑)。

 もし「私はできない子なんだ」と自分を責めたり落ち込んだりしていたら違う問題があったのかもしれないけど、ちょっと図太い子どもだったからADHDっぽいところがあっても私は気にしていなかった。言われたとおり、大人になったら困った。けど、生きてはいける(笑)。それで、ADHDっぽい人として、いま貂々さんとお付き合いしているんです。

細川:そうだったんですね。気づかなかったです(笑)。最近、私はADHDっぽい人と組んで何かをやるとうまくいくっていうことに気づきました。

青山:二人で喋って私が何かアイデアを思いつくと、貂々さんも「いいですね!」と盛り上がって、「で、どうする?」ってなりますよね(笑)。

細川:でも相性の悪いADHDの人と関わると、私はいつも怒ってなくちゃいけなくなるんですよ。ADHDの人は、私が嫌なことばっかりするわけです。時間を守らないし、忘れ物をするし、いい加減だし……。そういう人とはお付き合いできないので距離を置きます。あっ、ゆみこさんは大丈夫です(笑)。

青山:待ち合わせでは必ずわたしが遅れ気味で、汗をだーっとかいて到着すると、いつも貂々さんは涼しい顔で先に待ってますよね(笑)。その理由がわかってよかったです(笑)。

《後編に続く》

(2023年9月24日、兵庫・宝塚市立中央図書館にて)

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