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「移民はいない」と言い続ける日本を支えてきたのは誰か――外国人受入れの40年から日本社会を読み直す

記事:明石書店

『国際労働移動の社会学――日本の外国人労働者受入れ1985-2025』(明石書店、2026年刊)
『国際労働移動の社会学――日本の外国人労働者受入れ1985-2025』(明石書店、2026年刊)

 日本の外国人受入れの40年は、ひとことで言えば、否定しながら依存した40年だった。政府は「移民政策はとらない」という姿勢を一貫して維持している。けれども現実には、この40年のあいだに、多くの外国人が日本で働き、暮らし、社会を支えてきた。農業、製造業、建設業、介護、サービス業、学校、そして専門的な仕事の現場まで、外国人の存在なしには立ち行かない領域は、いまや少なくない。本書がたどろうとしたのは、この現実がどのように形づくられてきたのか、という歴史である。

 本書が1985年を起点にしたのは、日本の外国人受入れを制度の歴史としてだけではなく、日本社会そのものの変化として捉えたいからである。1990年の制度改正は重要だった。だがその前に社会の側の変化は始まっていた。1985年以降、日本は円高とバブル経済のなかで深刻な人手不足に直面し、農村でも都市でも日本人だけでは社会や産業を支えきれなくなり始めた。制度より先に、社会がすでに外国人を必要とし始めていた。

 日本は外国人労働者を必要としながら、その受入れを正面から認めることを長く避けてきた。そこで使われてきたのが、国際貢献、技術移転、留学といった建前や名目だった。外国人は、労働力として来ているのではなく、学ぶ人であり、技能を身につける人であり、国際協力の一環として来る人である。そうした言い換えによって、日本は必要な人手を確保してきた。

 こうした言い換えは、単なる言葉の問題ではない。そこには、日本社会が外国人をどのような存在として受け入れようとしてきたのかが表れている。必要なのは、まず働き手であり、最初から定住を前提とした人びとではない。社会の外から来て、一定の役割を果たし、やがて去っていく存在として受け入れる。そうした発想が、この40年のさまざまな制度の底に流れていた。外国人を必要としながら、外国人が日本で長く暮らし、家族をつくり、地域に根を下ろしていくことは、制度の中心には置かれてこなかった。

 だが、21世紀に入り、人手不足はますます深刻になった。少子高齢化が進み、若い働き手が減るなかで、日本社会はこれまで以上に多くの労働力を必要とするようになる。しかも、日本円は、かつてのような強さを持たなくなった。そうなると、建前や言い換えだけで現実を支えることは難しくなる。外国人が、いわゆる単純労働の分野を含め、日本社会を支える働き手として必要であることを、政府も正面から認めざるをえなくなった。これは単なる制度の変更ではない。日本社会が長く維持してきた建前そのものが、限界に達しつつあることを示している。

 しかし、この本で描きたかったのは、政策や制度の変化だけではない。より重要なのは、制度が当初、一時的な滞在や時限的な就労を想定していた人びとが、現実には日本で働き続け、暮らし続け、さまざまなかたちで定住への道を切り開いてきたということである。限られた情報と資本をもとに来日した人びとは、日本社会のなかで働き、生活し、ときに制度のすき間を縫い、ときに利用可能な制度を使いこなしながら、自らの生を持続させてきた。最初から明確な定住計画を持っていたわけではない人も少なくないだろう。それでも、働き続けるうちに生活が営まれ、人間関係ができ、次の選択が開かれていく。一時的な滞在として始まったものが、時間の経過とともに、少しずつ、しかし確実に、定住へとつながっていく。本書がこの40年の歴史のなかに見ているのは、そうした時間と選択の力である。

 重要なのは、外国人がただ長く日本にいたということではない。時間のなかで、その人びとの社会的役割そのものが変わってきたことである。単身の働き手や留学生として来日した人が、日本で働き、結婚し、親になり、地域社会の一員になっていく。日本社会の側は、外国人をしばしば一つの役割に固定して捉えようとしてきた。だが現実には、一人ひとりが時間のなかで役割を変えながら生きてきたのである。外国人受入れの40年とは、外国人の数が増えた40年であるだけでなく、外国人自身が役割を変えながら、日本社会のなかに深く根を張ってきた40年でもあった。

 同時に、本書は、日本の外国人受入れが、来日した人びとのその後の働き方や暮らし方を強く方向づける仕組みの上に成り立っていることも描いている。1990年につくられた在留管理の枠組みは、今もなお外国人の就労と生活を一定の型にはめ込む力を持ち続けている。その結果、多くの外国人労働者は、来日直後に与えられた地位にとどまりやすく、そこから上へ移動することは容易ではない。日本の外国人受入れの問題は、受け入れるかどうかだけではない。受け入れた後に、どのような位置に置かれ続けるのかという問題でもある。

 変わったのは、外国人の側だけではない。この40年のあいだに、日本社会の側もまた変わった。当初はゲストワーカーとして一時的に受け入れるはずだった社会が、しだいに、その人びとを無期限に必要とする社会へと変化した。外国人の存在は、労働市場の片隅の補助的なものではなく産業構造のなか、日常生活のなかに、深く根を張っている。しかもそれは、単に数が増えたということではない。日本社会の側が、その存在を前提に回るようになってきた、ということなのである。

 ただし、日本社会が変わったことと、外国人受入れの本質が変わったことは同じではない。「1990年体制」を基礎とする在留管理の枠組みや、外国人を周辺的な働き手として位置づける発想、日本の労働市場にある二重構造は、いまも大きくは変わっていない。外国人を社会のメンバーとしてではなく、必要な労働力として受け入れるという基本姿勢も、なお根強く残っている。

 しかしその一方で、日本社会を取り巻く条件は大きく変わった。人口減少と労働力人口の減少は、かつての想定よりも早く進んだ。日本経済の停滞は想像以上に長引き、日本の国際競争力や、日本で働くことの魅力も以前ほど強いものではなくなった。つまり、受入れの枠組みそのものは大きく変わらないまま、それを支えていた前提条件の方が大きく変化したのである。

 その結果、日本社会は、従来の枠組みを維持したままでは立ち行かなくなりつつある。一時的な働き手として受け入れるという発想は残っていても、現実には、その人びとをより長く、より広い分野で必要とする社会になっている。にもかかわらず、日本社会にはなおためらいや戸惑いがある。外国人を働き手として必要としながら、日本社会のメンバーとして正面から迎え入れることには慎重であり続けてきた。外から来た働き手として存在するかぎりでは受け入れる。だが、内側のメンバーになることにはどこかためらう。むしろ、必要だから受け入れるが、空気を読み、日本社会の内部に深く踏み込みすぎないでほしい。そうした感覚がこの40年の受入れの底に流れてきたのではないか。その意味で、日本社会が外国人に求めてきたのは、インサイドのメンバーではなく、役に立つアウトサイダーだったのではないか。

 だが、そのアウトサイダーは、もはや単純に外側にとどまる存在ではない。日本で働き、日本で暮らし、日本で家族をつくり、日本で子どもを育て、日本の制度や地域社会と関わりながら生きる人びとは、すでにこの社会の現実の一部である。社会の側がいくら「ゲストワーカー」として扱おうとしても、時間の経過は、その想定を越えていく。そうして日本は、時限的な働き手を受け入れる社会から、その人びとを長期にわたって必要とする社会へと変わってきたのである。

 外国人受入れの40年を振り返ることは、外国人だけをめぐる問題を考えることではない。それは、日本社会そのものを見つめ直すことでもある。外国人受入れをめぐる議論は、近年感情を帯びやすくなっている。だからこそ必要なのは、そのつどの賛否に即して反応することだけではなく、この40年の流れのなかで日本社会が何を選び、何をためらい、何に依存してきたのかを落ち着いて見つめ直すことではないか。本書が、そのための材料になれば幸いである。

『国際労働移動の社会学――日本の外国人労働者受入れ1985-2025』目次

第Ⅰ部 国境を越えるということ
第1章 政治構造としての「1990年体制」――35年の軌跡(倉田良樹)
第2章 移住労働者の階層的地位と移住システム(永吉希久子)
第3章 エリート戦略から生存戦略へ――ポストコロナ期における中国人留学生の日本選択(李敏)
第4章 「高度人材」のレトリックと排除のコード――二つのねじれ:制度的開放と構造的閉   鎖(松下奈美子)
補論 戦前の日本は移民送り出し国家であった(依光正哲)

第Ⅱ部 働くということ
第5章 外国人労働者の移民としての定着がもたらす日本の労使関係の変容(今野晴貴)
第6章 排他的移動経路としての移住労働の制度化――「人材育成」言説と選別的包摂(宣元錫)
第7章 日本のアニメ産業における外国人労働研究に向けて――下請け制作会社におけるエスノグラフィーからの示唆(松永伸太朗)
第8章 現代の日本の日本的雇用システムと外国人――採用・離職・不採用(園田薫)

第Ⅲ部 生きるということ
第9章 制度としての国際結婚――在留資格「興行」と疑似恋愛ビジネスが形成する婚姻とその帰結(安里和晃)
第10章 在日日系人子育て世帯の生活困窮下における永住志向と教育選択――日系ブラジル人と日系フィリピン人の比較分析(山本直子)
第11章 定住と離脱のあいだで――韓国人IT技術者の日本滞在とキャリア選択(松下奈美子)
第12章 地方圏市町村における住民の外国人政策に対する認識――外国人集住市町村の住民アンケート調査から(塚崎裕子)

終章 国際労働移動の社会学――構造・主体・時間(倉田良樹・松下奈美子)

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