来年4月より外国人労働者受け入れ拡大が始まる。人手不足の深刻な農業、介護などの14業種を対象に、5年間34万5千人の受け入れが想定されている。
だが、すでに国内で128万人の外国人が働いている。その数は過去5年で60万人増、この1年で20万人増と急速に伸びた。『コンビニ外国人』はそのような外国人の若者に迫る。
全国約5万5千店舗のコンビニは人手不足にあえぎ、外国人留学生が頼りだ。留学生は週28時間の資格外労働が許可され、自分の意思で働くが、シフトに入ってくれと店長に懇願されることも多い。
本書が光をあてるのは労働面だけではない。若者たちはなぜ日本に来たのか、仕事外の時間をどう過ごすのか、誰とどこで暮らすのか、将来の夢や展望は何かがインタビューを通して描かれる。「外国人労働者」は日本で様々な思いを抱えながら暮らす「生活者」でもある。
社会保障に貢献
生活なき労働者は存在しない。だが生活者としての権利が外国人労働者には保障されていない。そのことを『外国人労働者受け入れを問う』は指摘する。日本政府が「移民」という表現を避け、「外国人労働者」という言葉を用いるのは、生活者としての側面を認めないからだ。定住のコストは払いたくないが労働はしてほしい、との本音が透けて見える。
「定住コスト」には様々な議論がある。今年6月のOECD(経済協力開発機構)報告書は、移民は短期的には教育などのコストがかかるが、長期的には社会保障に貢献すると指摘した。イタリアでも7月、社会保障当局幹部が年金制度維持のためにも移民が必要だと発言したと現地メディアが報じた。定住外国人は、高齢化社会を支えるメンバーともなりうる。
日本でも外国人定住支援に取り組む自治体が現れている。『コンビニ外国人』の終章にでてくる広島県安芸高田市市長は「町を支えるピンチヒッター」と呼ぶ。地方は政府に先んじて未来を見据えている。在日外国人の4割が永住資格を持つなど外国人の定住化が進むなか、現実を受け止め、どう共生するかを議論すべきではないか。
若者の海外流出
だが議論を尽くさぬまま改正入管法は今月8日未明に強行採決された。今回も首相は「移民政策」ではないと強調した。目前の人手不足解消ばかりで、生活者としての外国人の権利も、受け入れ地域社会への影響も熟慮しないずさんな内容だった。
人間ではなく労働力としてしか外国人を見ない。こうした態度に欠けているのは「自分たちも外国人労働者になりうる」という発想だ。だが、海外に渡り外国人労働者となる日本人はこれまでも存在してきた。『移民国家アメリカの歴史』は、日本からアメリカ本土とハワイに、出稼ぎ労働者として渡った約38万人が、排日運動や強制収容などの苦労を重ねながら定住していった姿を「人の移動の世界史」の視座からとらえ直す。
これは過去の話ではない。日本の人口は減少しているが、海外に移住する日本人(永住者と長期滞在者)は増加を続け、この四半世紀で2倍となった。移住者の大半は「外国人労働者」でもある。『若年ノンエリート層と雇用・労働システムの国際化』(藤岡伸明著、福村出版、8100円)は、日本で活躍の場を見いだせない若者がワーキングホリデー制度を利用してオーストラリアに渡り、低賃金労働者として働く姿を描く。
自国の外で働く選択は、状況次第で誰もがしうる。その点で「外国人労働者」は根本的に異なる他者ではない。いつ同じ立場に置かれるかわからない。そのような視点から共に生きる社会を構想することが大切だ。=朝日新聞2018年12月15日掲載