戦争への過程を昭和史から読みとく――半藤一利『新版 B面昭和史 1926-1945』解説より
記事:平凡社
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読後、つくづく戦争は人間から人間らしさを奪い、人間は人間でなくなりうることを痛感させられます。過去を書きながら「現在の問題そのものを書いている」という著者は、個人の価値よりも国益を優先させるべきという集団主義への傾向が強まっていることにたびたび憂いを隠しません。日常をたのしく生きることは疎(おろそ)かにしたくないけれど、「時代の風」に乗せられるまま、気がつけばいつの間にか有事のなかにいる、戦争に巻き込まれている──そんなことがふたたび起こりうるのか。
最後になって著者は、よくいわれる「歴史はくり返す」という言葉の真偽を再考せざるを得なかったようです。「必ずしもそうは思わない」、でも人間心理を考えれば「やっぱり歴史はくり返すのかなと思いたくなってしまいます」(あとがき)と嘆息せざるを得ないのは、歴史は人がつくるからです。懲りない人間と生まれたからには、くり返してはならない歴史を飽きるほど、血肉となるまで学ばねばならない、ということでしょう。そこでは戦争への過程、つまり前段階を知ることが肝要ともいいます。「あのときがノー・リターン・ポイントだった」と悔いないために、「わたくしたち民草がどのように時勢の動きに流され、何をそのときどきで考えていたか、つまり戦争への過程を昭和史から知ることが、平和でありつづけるための大事な日常的努力ではないか」。大切なものは、無事の日常は、知らないうちに失われているかもしれないのです。ならば今すぐにでも周囲を、世界をしっかりとみつめなければなりません。誰もが「犠牲者然とせず、くり返し考え知り、疲れる努力をあえてする」こと、「目標が誤った大勢順応の危険、過去を直視する必要」を、著者は戦争を知らない世代に懸命に伝えようとしています。
世界では今も各地で戦闘が絶えません。生まれる場所を選べなかった住人たちが毎日どのような時間を過ごしているのか、本書はその想像をかきたてます。昭和二十年の敗戦から今にいたるまで日本が戦争をしてこなかったことは、あたりまえでは決してなく、世界のこの八十年を眺めれば奇跡とさえ思われます。奇跡は永遠に続くものでしょうか? ここに編まれたのは昔のエピソード集ではないのです。描かれた数々の話の主人公は、めいめいの読者です。過去の私たちであり、あるいは未来の私たちかもしれません。平和が続くために何をすべきか、こたえは一人ひとりに委ねられています。
(やまもと あきこ/「昭和史」シリーズ編集者)