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戦争と復興の時代「昭和」の教訓を読み継ぐ——半藤一利『昭和史』

記事:平凡社

左/『新版 昭和史 戦前篇 1926-1945 』。右/『新版 昭和史 戦後篇 1945-1989』。新版となり、新たに索引や解説が付された。ともに平凡社ライブラリーシリーズ、定価各1,320円(10%税込)。
左/『新版 昭和史 戦前篇 1926-1945 』。右/『新版 昭和史 戦後篇 1945-1989』。新版となり、新たに索引や解説が付された。ともに平凡社ライブラリーシリーズ、定価各1,320円(10%税込)。

通史として「昭和」に取り組んだ意味

 半藤さんが生前によく口にしていたのが「リアリズムの大切さ」でした。昭和20年8月15日、勤務先の工場で終戦を迎えた15歳の半藤少年は、「アメリカ軍が来て占領されたら、南の島かどこかで一生奴隷になる」と教えられていました。それなら今のうちに楽しんでおこうと、同級生と防空壕で煙草をふかした翌日、「南の島へなんて、どうやって何千何百万人を運んで行くんだ」と父親に怒鳴られ、噓とわかったのです。敗戦直後の体験はよほど胸に刻まれたのか、このとき「リアリズムに覚醒した」といいます。その後、戦中に大敗を喫したノモンハン事件について、現実を直視しなかった陸軍の勝手な判断が悲劇を招いたと、リアリズムの欠如を追及しました。戦後については東日本大震災ののち、「日本は武力では守れないことを知らねばならない。海岸線が長大なこの国で、人は岸辺にだけ住んでいる。すべて海岸線にある原発を狙われれば防ぎようがない」と警告し、外交力や文化力を磨くことの重要性を訴えたのです。「戦前篇」の最後で「起きては困ることは起きない」と思いこむ日本人の悪弊を指摘した半藤さんは、"原子力神話"を「リアリズムを欠いた底知れない無責任という言葉の代名詞」とも述べました。自分たちに都合のいい思い込みを戒め、現実を直視する訓練・・は、いつの時代、何においても欠かせないというわけです。

『昭和史』シリーズの著者、半藤一利さん。1930年東京生まれ。東京大学文学部卒業後、文藝春秋入社。「週刊文春」「文藝春秋」編集長などを経て作家に。『昭和史 1926‒1945』『昭和史 戦後篇 1945‒1989』(平凡社)で毎日出版文化賞特別賞を受賞。2015年菊池寛賞を受賞。2021年1月12日逝去。
『昭和史』シリーズの著者、半藤一利さん。1930年東京生まれ。東京大学文学部卒業後、文藝春秋入社。「週刊文春」「文藝春秋」編集長などを経て作家に。『昭和史 1926‒1945』『昭和史 戦後篇 1945‒1989』(平凡社)で毎日出版文化賞特別賞を受賞。2015年菊池寛賞を受賞。2021年1月12日逝去。

 そもそも通史に取り組むことを考えていなかった半藤さんは、本シリーズで昭和史に一から向き合ったことについて晩年、次のように語っています。

「改めて一から昭和の歴史に取り組んでよかったのは、自分のなかでわからなかったこと、つまりどうしてここでこうなっちゃうのかな、というところが理解できたことです。ピンポイントでやってると見えないんですね。(中略)たとえば二・二六事件という一つの大きな事件、これだけを突っこんでやっているとたしかに面白いですよ。だけどやっぱり『部分』なんです、ピックアップしているだけです。ところが歴史の流れのなかで二・二六事件をとらえると、見方がまた違ってくる」『半藤一利 わが昭和史』

 一つの事を集中して学び、視線を引いて全体を眺める、この往復によって新たな発見や別の見方に出あう。その果実が『昭和史』にちりばめられていることは言うまでもありません。

文/山本明子

■『新版 昭和史 戦前篇 1926-1945』目次
はじめの章 昭和史の根底には“赤い夕陽の満洲”があった
第一章 昭和は“陰謀”と“魔法の杖”で開幕した
第二章 昭和がダメになったスタートの満洲事変
第三章 満洲国は日本を“栄光ある孤立”に導いた
第四章 軍国主義への道はかく整備されていく
第五章 二・二六事件の眼目は「宮城占拠計画」にあった
第六章 日中戦争・旗行列提灯行列の波は続いたが……
第七章 政府も軍部も強気一点張り、そしてノモンハン
第八章 第二次大戦の勃発があらゆる問題を吹き飛ばした
第九章 なぜ海軍は三国同盟をイエスと言ったか
第十章 独ソの政略に振り回されるなか、南進論の大合唱
第十一章 四つの御前会議、かくて戦争は決断された
第十二章 栄光から悲惨へ、その逆転はあまりにも早かった
第十三章 大日本帝国にもはや勝機がなくなって……
第十四章 日本降伏を前に、駈け引きに狂奔する米国とソ連
第十五章 「堪ヘ難キヲ堪ヘ、忍ビ難キヲ忍ビ……」
むすびの章 三百十万の死者が語りかけてくれるものは?
こぼればなし ノモンハン事件から学ぶもの
関連年表/あとがき/解説/参考文献/索引

■『新版 昭和史 戦後篇 1945-1989』目次
はじめの章 天皇・マッカーサー会談にはじまる戦後
第一章 無策の政府に突きつけられる苛烈な占領政策
第二章 飢餓で“精神”を喪失した日本人
第三章 憲法改正問題をめぐって右往左往
第四章 人間宣言、公職追放そして戦争放棄
第五章 「自分は象徴でいい」と第二の聖断
第六章 「東京裁判」の判決が下りるまで
第七章 恐るべきGHQの右旋回で……
第八章 朝鮮戦争は“神風”であったか
第九章 新しい独立国日本への船出
第十章 混迷する世相・さまざまな事件
第十一章 いわゆる「五五年体制」ができた日
第十二章 「もはや戦後ではない」
第十三章 六〇年安保闘争のあとにきたもの
第十四章 嵐のごとき高度経済成長
第十五章 昭和元禄の“ツケ”
まとめの章 日本はこれからどうなるのか
こぼればなし 昭和天皇・マッカーサー会談秘話
関連年表/あとがき/解説/参考文献/索引

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